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2004年2月13日 じゃかるた新聞掲載

鳴動インドネシア−総選挙・大統領選の行方(3)
本名純 (立命館大学助教授)
他党切り崩しが激化 焦るメガワティ党
 着々攻勢ゴルカル
 いよいよ総選挙のキャンペーン期間を来月に控え、政党の選挙対策活動が各地で活発化している。いかに支持者を動員するか。いかに対抗政党の地盤を切り崩すか。水面下で繰り広げられている政党の勧誘合戦と神経戦は、各地で日増しに熱くなっている。中でも、メガワティ大統領率いる闘争民主党の焦りは深刻だ。今回はこの視点から選挙の展開を考えてみよう。
 闘争民主党は、前回一九九九年選挙で、全投票の三三%を取って第一党になった。中でも強かったのが、バリ、中部ジャワ、ジャカルタ、北スマトラ、南スマトラ、ランプン、中部カリマンタン、東カリマンタンといった州だ。
 特にバリでは七八%という圧倒的な得票率を誇り、続いて中部ジャワ(四三%)、北スマトラ(四〇%)、ランプン(四〇%)という具合に、この四州で絶対的な強さを示した。しかし現在こういった地盤での支持の低下が顕著にみられる。

■地盤沈下は不可避−バリ 

 例えばバリだ。党の州支部内部は分裂状態にあり、一丸となった選挙戦術を立てられないでいる。発端は昨年の州知事選で、党の中央執行部は、州支部が推す候補者にストップをかけて、現職支持の指令を出した。多くの地元議員と支持者たちは、中央の指令に不満を持ち、党は「中央支持」と「反中央」で分裂した。
前回選挙で闘争民主党の得票率が高かった州
前回選挙で闘争民主党の得票率が高かった州

 「分裂は一時的なもの」と副州知事は筆者に語ったが、その後「反中央」は「村八分」にされ、ついには数人が他党に移籍した。彼らの地元サポーターも当然、今後は反闘争民主党で動く。バリにおける闘争民主党の優位は揺るがないが、支持率の低下は避けられない。
 流出する票の多くはゴルカルが吸収するものと思われる。ヒンドゥー教徒のバリ人は、イスラム系政党には抵抗が強い。加えてプラグマティックな考えも強く、闘争民主党がだめなら、下手に新党に期待するより昔の与党のゴルカルに入れよう、というムードがある。

■金と力を総動員−中部ジャワ

 中部ジャワもバリに次ぐ強力地盤だ。ここでは州内三十五県のうち、二十県に闘争民主党の影響下の県知事がいる。彼らの中には、例えばクラテン県のように、県知事が党県支部長を務め、かつ党県支部自警団司令官という「最強」の肩書きを持つものも少なくない。
 金と力を総動員して、各県内を選挙で闘争民主党一色に染める気合で溢れている。党州支部の票組織化担当部長は、「県知事の集金力が最後に物を言う」と自信を示しながらも、「ゴルカルに崩されつつある地区もある」と懸念を漏らす。実際、ゴルカルが闘争民主党の自警団の集団買収に成功しているケースも見られる。
 「支持者動員において、闘争民主党と同等に戦える県が増えている」と言いながら、ゴルカルの州支部副幹事長は、筆者が持参した地図を奪い取って次々と丸印を書き込んだ。客観的にみて、この州での闘争民主党の優位は揺るがないだろう。しかし前回選挙のように四三パーセントを取るのは夢に近い。

■利権絡み対立−北スマトラ

 北スマトラでも同様に支持率は低下するものの、闘争民主党が第一党の地位を維持するものと思われる。
 数年前の複数の県知事選や、昨年のメダンの首長選でみられたように、利権絡みの党内対立はいまだ健在だ。
 しかし、昔ながらの党の地盤があったり(カロ県)、メダンでの党と地元経済エリートとの関係も緊密だったりで、それなりに党の求心力は維持されている。そのため、ゴルカルの切り崩し努力も成果がいまいちのようだ。

■ゴルカル巻き返す−西ジャワ

 対照的に、西ジャワでは前回、闘争民主党が勝ったが、現在はゴルカルの巻き返しがかなり進んでいる。「地方役人はほぼ全員ゴルカル支持に戻った」と、党の州支部幹部の一人は豪語する。この州は総選挙で最大の議席配分を持つことから、メガワティの夫のタウフィックが必死に支持固めに乗り出しているが、どこまで票を維持できるか。見物ではある。

■ゴルカルが実弾−東ジャワ

 東ジャワも厳しい。闘争民主党は州内各地で内紛をエスカレートさせている。ジュンブル、シトゥボンド、マラン、スラバヤ、バニュワンギといった地方で、次期選挙での候補者順位をめぐって議員は対立し、それに動員された党自警団が連日抗議デモに励む。
 内紛で数万人の支持者が党を離れると推測されている。この州はアブドゥルラフマン前大統領のお膝元で、前回選挙では彼の率いる民族覚醒党が第一党だったが、この党も内部対立のため求心力が落ちている。
 闘争民主党から去る票の多くはゴルカルか、ハムザ副大統領の開発統一党に流れる可能性が高い。ジュンブル県議会の闘争民主党会派長の話では、ゴルカルの実弾攻撃が確実に村民のハートを射止めているらしい。

■大統領夫が暗躍−南スマトラ

 南スマトラは、メガワティ大統領の夫タウフィック氏の地元で、闘争民主党の影響は強い。だが昨年の州知事選で、彼の推す候補者が党州支部の多くの議員の反発を受け、知事選で造反議員を多数出した。これ以降、党内は対立状態にある。
 最近十五人もの党幹部が離党したが、それに連動して彼らの地元支持者も他党に流れる。ゴルカルがその受け皿になっている。地方の役人の多くもゴルカルの掌握下にあると聞く。次回選挙では互角か、闘争民主党に勝つ勢いだ。
 ランプン州でも、メガワティとタウフィックが推す州知事候補に対して党支部内で反発があり、造反の結果、その候補者は敗れた。
 以後、党内は混乱したままだ。最近、州支部の幹部議員十人を除党処分にして、強引に党内結束を図っているが、かなり無理がある。幻滅した支持者の多くは、やはりゴルカルに流れると予測される。
 ただ、この州はジャカルタに近いことから、新規開発プロジェクトのうまみがあり、タウフィックをはじめ、闘争民主党系の閣僚数人が土地開発の利権を持っている。
 州知事選のやり直しという異例の事態にいま陥っているのも、彼らがリモートコントロール可能な知事を求めているからで、何が何でも他党には譲れない州という位置付けになっている。総選挙では無茶をしてでもゴルカルと戦うであろう。勝敗は微妙だ。

■意地でも勝たねば−優勢4州

 このように五年前に闘争民主党が圧勝した多くの州で、今回接戦が予想される。前回に四〇%以上を取った「優勢四州」でさえ、支持率低下が必死だ。当然、ゴルカルの地盤であるスラウェシ、マルク、パプア、西ヌサ・トゥンガラ、東ヌサ・トゥンガラなどでは、さらに厳しい結果が待っている。
 こういったプレッシャーもあり「優勢四州」では、意地でも勝つという緊迫したムードがある。なり振り構っていられないという雰囲気だ。それが暴走につながり、他党サポーターとの衝突につながる可能性も高まっている。
 次回はそういったスポットを見てみよう。

つづく


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