なんと携帯電話で総選挙の開票状況が随時分かる! おう、便利な時代になったもんだと、開票当日は一時間に一度SMSを見て喜んだ。でもすぐに飽きて翌日からはマジメに得票分析と政界の動きを追うことにした。やはり選挙は面白い。泣く人、笑う人、怒る人、怒られる人。さまざまな顔がドラマを演出する。今回泣いたのはメガワティ大統領率いる闘争民主党だ。
■金を注ぎ込みずっこけた
最大票田の西ジャワ州を闘争民主党から奪回できそうなものだから、ゴルカル党の笑いは止まらない。メガワティが選挙キャンペーンでチアミス、タシックマラヤ、ガルット、バンドン、ボゴール、ブカシと、ゴルカル党の強い南部の県を自ら足で回り、夫のタウフィック・キマスが北部全県でくまなく資金をばら撒いたにもかかわらず、見事にずっこけた。
投票日の数日前、同党州支部でキャンペーンの指揮をとる自警団長は、「メガのキャンペーンは効いている」と自信満々に語っていた。「もしもし?」という感じだ。「キアイ(イスラム伝導師)と地元役人の多数は押さえてあった」とゴルカル党中央執行部委員長の一人は笑顔で説明する。
■闘争民主党を粉砕
同州出身のゴルカル党幹部議員も「闘争民主党を粉砕したぞ」と豪笑だ。
彼らの勝利ムードは分からなくもない。が、客観的に見て闘争民主党が前回選挙より票を落とすのは必然だ。反スハルトの浮動票あっての前回の三四パーセントである。元々二〇パーセント程度が党の伝統的地盤票で、このレベルを維持できれば今回は良し、という議論も党内にある。
■メガに代わる候補なし
ただし、これを下回ったら党執行部の責任問題に発展する可能性は高い。特に党決定を独占してきたタウフィックに対する不満をこの期に爆発させようと目論む党幹部がウジャウジャいる。ただ同党にはメガに取って代わる「顔」がいないのも現実だ。
いっそこの機に野に下って、党指導部の建て直しと地方支部の近代化に専念するか? そんな眠たい正論は大統領選の後に吐いてくれ、というのがタウフィックの心境だろう。
■複雑化したゲーム
実際、七月の大統領選は、ゴルカル党の総選挙での勝利でえらくゲームが複雑になってくる。タウフィックは、闘争民主党が総選挙で勝利して、メガワティの副大統領候補をゴルカル党から迎えることで、次期政権での二大政党連合を構想していた。
ゴルカル党のアクバル・タンジュン党首も、そう考えていた。だが総選挙で同党が第一党になる気配が強まるにつれ、そのシナリオも魅力が薄れている。
勝利党が負け党の副大統領候補になるのは変だ、という党内の声がアクバルを突き上げている。メガワティは副大統領になる気はない。だったら他党との連合がベターだ、という話がゴルカル党内で支配的になっている。
■両手に花のユドヨノ
そこで登場するのが、今回の選挙で躍進したスシロ・バンバン・ユドヨノ率いる民主党だ。ユドヨノの人気は高い。メガをも上回る勢いだ。彼と引っ付けば大統領選でいける、という皮算用から、ゴルカル党をはじめ多くの主要政党は彼にアプローチしている。
ただユドヨノは大統領候補として自分を考えている。「副になる気はさらさらないようだ」と彼のアドバイザーは指摘する。であるなら自分とペアを組む副大統領候補を探すしかない。誰がいるか。少し市場を探ってみよう。
■焦点はゴルカルの3人
アミン・ライス? 彼は意地でも大統領になりたいと駄々をこねている。とりあえず排除だ。ハムザ・ハズ現副大統領? あまり魅力はない。ハシム・ムザディNU議長? 無難だが票稼ぎにあまり貢献しそうもない。
今回躍進した福祉正義党のヌル・ワヒド党首? 人は良いが知名度低すぎ、兼イスラム色強すぎで軍は嫌がる。なかなかマッチングは難しい。
となると、やはり大政党を視野に入れざるを得なくなる。ユドヨノは「メガとタウフィックがいる闘争民主党とは組まない」と言い放った。残りはゴルカル党だ。候補は三人――アクバル、ウィラント、ユスフ・カラだ。同党が抱える他の候補者は対象外と見て良い。
■百戦錬磨アクバル戦略
ではアクバルではどうか? 党首として力はあるが評判悪すぎだ。クリーンなイメージで売るユドヨノにはマイナスに働く。ウィラント? ユドヨノとの仲は悪くないが、元軍人同士のコンビでは時代錯誤か。最後に残ったカラはどうか? マッチングは悪くない。軍人と文民、ジャワ出身と外島出身、そしてナショナリストとイスラムというコンビだ。
カラにはクリーンなイメージもある。ゴルカル党が彼を担ぎ、ユドヨノの副大統領候補に押し込むことができれば、ユドヨノの人気とゴルカル党の組織票で、メガワティ打倒のシナリオが現実味を帯びてくる。
■まずウィラントを蹴落とす
こんなロジックで考えると、私がアクバルなら、次の一手は自分に敵対的なウィラントを蹴落として自ら党の最終的な大統領候補になり、党内実権をまず確実に手中に収めたい。この機会が今月二十日に開かれる党大会だ。そうしておいて、自分ではやっぱり大統領選で勝つ見込みがないなどの理由で、カラに候補者としての資格を譲る仕掛けを作り、彼をユドヨノの副大統領候補に押し込む。
■そしてキングメーカーに
そしてこのコンビで大統領選に臨み、勝ったあかつきには連合政権のキングメーカーとして政権を支え、閣僚を送り込み、ゴルカル党党首として今後も君臨する。自分が表に出るのは二〇〇九年で良い。百戦錬磨の自分だ。五年後まで生き残る自信はある。
しかし、政治は大概ロジック通りには進まない。ユドヨノやカラ側の計算も色々あろうし、ユドヨノを身近で支えるアブドゥルラフマン前大統領の政治トリックも、毎度の事ながら大きな不確定要因だ。
いずれにせよ、選挙政治のドラマはまだ第一幕の最中だ。次に笑うのは誰か?観客の一人としては、どんでん返しで、あっと驚くのを期待していたりもする。