ホーム
2004年1月14日 じゃかるた新聞掲載

鳴動インドネシア−総選挙・大統領選の行方(1)
本名純 (立命館大学助教授)
政治家は民意に応えたか 問われるメガワティ政権
 危険な悲観主義の芽生え
 史上初の大統領直接選挙(七月五日投票)、その前哨戦となる総選挙(四月五日投票)に向け、政治家も国民も、真剣勝負で動き出した。「改革時代」の過去五年間、三人の大統領が登場したが、何も変わらなかったとの国民の声も聞こえる。複雑怪奇なインドネシア政治は、かつて、人形劇のワヤンに例えられた。スハルト政権崩壊後、二度目の国政選挙で、インドネシアの政治ドラマはどう展開するか。人々の意識や社会はどう変わるのか、変わらないのか。インドネシア政治の気鋭の学者、本名純・立命館大学国際関係学部助教授に、この一年間、広い視野でインドネシア政治を観察していただく。
本名純・立命館大学助教授 本名純(ほんな・じゅん)1967年東京
生まれ。専門はインドネシア現代政治。
スハルト政権末期の民主化運動に軍が
いかに対応したかを分析した英文著書
など軍関係の論文多数。
 今年は五年に一度の選挙の年だ。これから年末まで政治の季節が続く。私がインドネシアの選挙を研究対象として初めて、真面目に観察したのが修士の学生だった一九九二年。それから九七年、九九年と三回の総選挙を通して、この国の政治の面白さを味わってきた。今年は以前に増して面白そうだ。何といっても史上初の国民直接大統領選挙が行われる。総選挙と大統領選――この二つのイベントで今年は政治一色になる。
 総選挙は四月五日。それに向けての各党の候補者確定が今月に始まり、三月には選挙キャンペーンが全国で繰り広げられる。総選挙の次は大統領選挙が七月五日に控えている。五月にその立候補者が決定し、六月にキャンペーン合戦がスタートする。
 大統領選では、過半数票を得る候補者が出ない場合、上位二名で争う決戦投票が用意されており、これは九月に行われる予定だ。最終的に正副大統領が決まるのは十月の終わり。この十カ月に及ぶ選挙期間を経て、この国に新政権が誕生する。

■「改革時代」を問う

 さて誰が大統領の座を手に入れ、どの党が与党になるのか。「ズバリ当てましょう」に興味はないが、選挙というイベントが、この国の政治を動かす実態にはとても関心がある。選挙でインドネシアはどう変わるのか、変わらないのか。この連載では、選挙モードに突入したいま、政治に何が起きているかをテーマに、様々な問題を考えていきたい。
 とはいうものの、初回としては、細かい話は抜きに、まずは今年の選挙の意味を、大きな視点から考えてみるべきだろう。今度の選挙というのは、一言で表現すれば、「改革時代」の評価を問う初めての選挙と言える。なぜそうなのか。少し過去を振り返ってみよう。

■2大政党の盛衰

 三十二年に及ぶスハルト長期独裁政権が一九九八年に倒れ、インドネシアは民主化の道を歩き始めた。前回九九年の選挙は、まさに新時代の幕開けに国民がイエスという支持を示した選挙だった。
 それは、旧体制下で弾圧され、「反スハルト」のシンボルとなったメガワティ現大統領と、彼女が率いる闘争民主党が、多くの国民の支持を得て第一党にのし上がった事実に象徴される。九七年選挙では、たった三パーセントだった同党の得票率は、九九年では三四パーセントと、約十倍に膨れ上がった。
 逆にスハルト時代の政府与党のゴルカル党は、旧体制のシンボルとのレッテルを貼られ第二党に転落した。得票率も一九九七年選挙の七七パーセントから二二パーセントへと半分以下になった。旧体制への反対票が闘争民主党に集中した結果だ。「民主化イエス、スハルト体制ノー」という政治の流れに、国民が支持の評価を与えたのが一九九九年選挙の意味といえよう。

■政治も経済も怪しい

 あれから五年。政治はよくなったか。かなり怪しい。いまや汚職は政治の代名詞だ。経済はどうか。これも怪しい。モールでわんさか高級品を買う人がここ数年目立つように「ニューリッチ」(オラン・カヤ・バル、OKB)が増える一方、四千万人とも言われる失業者を抱える現在の姿は、経済格差の深刻な悪化状況を示している。
 こうしてみると、今年の選挙が何を問うものなのかは明白だ。すなわち、国民が前回選挙で示した旧体制からの脱却の期待を、新時代の政治リーダーたちが真剣に受け止め、過去五年間に必要な改革を進めてきたと言えるかどうかが初めて問われる選挙である。
 中でも一番の評価対象は、前回選挙で第一党に選ばれた闘争民主党だ。「反スハルト」のシンボルは、ここ五年で何をやってきたのか。スハルト体制の精算と、政治経済危機からの回復に必要な改革をどこまで推進してきたのか。同党に対する悲観的な国民意識は、各種の世論調査で明らかだ。

■国家の行方を左右

 危険なのは、この意識が新時代の政治そのものへの失望感となり、昔の美しさが語られ、旧勢力のカムバックを容易にし、結果的に政治の停滞スパイラルを招きかねない点にある。その意味で、今年の選挙は過渡期の国家の今後の行方を左右する歴史的な重要性を秘めている。
 こういった認識を踏まえて、次に来る現実的な問いは、今度の選挙でどういった政治ゲームが展開されるのか、ということに尽きよう。ゲームにはプレーヤーがいて、それなりの法則があり、勝ち負けがある。
 次回から、それらを見ていくことで、今年の選挙の醍醐味を皆さんと共有していきたい。

つづく


鳴動インドネシア−総選挙・大統領選の行方
第1回 | 第2回 | 第3回 | 第4回 | 第5回 | 第6回 | 第7回 | 第8回 | 第9回 | 第10回


関連特集 >> 総選挙2004




ホーム | この一週間の紙面
 Copyright © 2004 PT. BINA KOMUNIKA ASIATAMA, BYSCH
 All Rights Reserved.