今回は、クマノミの話をしよう。
クマノミは、プラウスリブの島の桟橋からパンくずを投げてやると、水面まで群れて食べに来る10センチぐらいの黒と白(時々、黄色)の縞模様のお魚と同じ、スズメダイ科に属するクマノミ亜科のメンバーで、2属28種が知られている。
とは言うものの、地域固定種や変異種も多く、通常お目にかかれるのは「クマノミ」「カクレクマノミ」「ハマクマノミ」「ハナビラクマノミ」「セジロクマノミ」「トウアカクマノミ」「スパインチーク・アネモネフィッシュ」の7種類である。
■サンゴ分布域に生息
通常お目にかかれるなどと、簡単に書いてしまったが、これはインドネシア周辺の海域でのお話。実は、このクマノミ類はインドパシフィックと呼ばれる海域の一部(沖縄辺りからフィリピン、インドネシア、豪州北部と東部、モルディブとマダガスカル周辺)にしか生息していないのだ。
同じ太平洋でも、ハワイやフィジー周辺には、なぜか、いないのだ! 当然、地中海にもカリブ海にも、フロリダ沖にもいないのだ! だから、この地域で初めてダイビングをした米国人などは「オオー、アネモネフィッシュー!」などと、われわれがマンタと出会って騒ぐくらい興奮したりするのである。
|
|
|
|
筆者の好みで取り合えず4種類だけ掲載してみた。どれが何という名前か全部言える
人はかなりオタクがかっていると自慢していいだろう
|
おっ、さすがはじゃかるた新聞の愛読者、この分布、どこかで読んだことがあるような気がしている人もいるであろう。そう、サンゴ礁の分布に非常に似ているのだ。なぜそうなのか、分かっている人はまだいない。
クマノミの住むイソギンチャクの種類が他の海域にはいないからだとする説もあったが、またまたお暇な人が、大西洋に住むイソギンチャクとクマノミを同じ水槽に入れて実験したら、ちゃんと住み着いたというので、この説はボツになっている。
■イソギンチャクと共生
先走ってクマノミの住むイソギンチャクなどと書いてしまったが、クマノミとイソギンチャクの共生は非常に有名であるので許してもらおう。
水槽の中ではイソギンチャクがなくても全然平気(そうに見えるだけなのだろうが…)でいるクマノミちゃんであるが、自然界では、イソギンチャク以外の場所にいることはまったくない。
「カクレクマノミ」のように、小さくて、いかにもオドオドした泳ぎしかできない魚なら、イソギンチャクを出たら他の魚に食われちゃうんだろうなぁ…ということで納得できるのであるが、「クマノミ」「ハマクマノミ」「トウアカクマノミ」など10センチ近くの大きさがあり、実際、それほど気が弱いわけでもなく、ダイバーがあまりちょっかいを出すと突っつくこともあるような種類になると、「???」なのだ。
実際問題として、10センチ前後の魚など、その辺にいくらでも泳いでいるではないか。
■水中写真の定番
筆者の場合、クマノミというと、頭の中には「カクレクマノミ」が浮かんでくる。それほど、オレンジ色に黒の縁取り付きの白縞、5センチ前後の「カクレクマノミ」ちゃんは愛らしく、水中写真愛好家の写真の定番でもある。
話はそれるが、「カクレクマノミ」を被写体に選ぶ水中写真愛好家は多いのだが、まともな写真を撮れる人は非常に少ない。それほど、こまめにイソギンチャクの中を動き回ってくれ、少しもじっとしていないのだ。やんちゃ坊主を双子か三つ子で抱えたお母さん並に、忍耐強くじっと見守らなくてはならない。
筆者は自称「水中プロカメラマン」であるが、水中カメラを初めて手にしたころ、本物のプロのカメラマンに「どうしたら良い写真が撮れるのでしょう?」みたいな、今から思えば馬鹿げた質問をしたことがあるが、返ってきた答えが、「そりゃあね、君、クマノミの写真を撮ろうととしないことだよ!」であった。とにもかくにも、本人が熱中するほど、人をうならせる写真が撮りづらいのがクマノミなのである。
「カクレクマノミ」がどれだけ泳ぎが下手かと言うと、イソギンチャクの中にいるクマノミの中で、素手(とは言ってもグローブをしていないとイソギンチャクに刺されますぞ!)で捕まえることができるのは「カクレクマノミ」ぐらいのものであろう。ほかの種類は網を使わない限り、まず無理である。
■元の場所に戻る実験
さて、手の中に入った「カクレクマノミ」ちゃんを、イソギンチャクから少し離れたところで放すと、一目散に元のイソギンチャクに逃げ込んでいく。その泳ぎが、本人は必死こいて泳いでいるはずなのだが、「ピューっ」とか「サーッ」とかいう表現が絶対に当てはまらない。「チョロチョロ」ってな感じなのである。
どれぐらい離しても元のイソギンチャクに戻るのかを、ダイビングの際の安全停止の間の暇つぶしにやったことがある。
50センチぐらいまでは、一直線(でもないんだけど)に、元のイソギンチャクに逃げ込む。1メートル近くなると、ちょっと「迷子の子猫ちゃん」状態があり、一番近くの同種のイソギンチャクに逃げ込む。
こんな自称「生物学の実験」、実は虐待をして遊んでいたある日、ものの60センチ程度の距離で離した「カクレクマノミ」ちゃんは、この距離を移動し終える前に、どこからともなく出現し、その倍以上の距離を移動してきた15センチぐらいのハタにパックと食らわれてしまったのであった…合掌。
ものすごい罪悪感を感じたのであるが、それ以上にびっくりしたのは、ハタ野郎のあ然とするぐらいのダッシュ力であった。こりゃ、「カクレクマノミ」ごときの泳ぎじゃ、スイミングスクールの幼児クラスとオリンピック選手の差以上。イソギンチャクを離れないわけである。
自然界の掟は厳しいのであるが、読者の皆さん、くれぐれも実証実験と称して同じことをなさらないように…。というわけで、クマノミちゃん、気をつけて!
さて、クマノミはかわいいだけでなく、いろいろ独特の生態がある。次回はその辺のお話をしてみようと思う。