サンゴ礁保護の話題が大手新聞の一面に出たりする今日このごろ、さすがにサンゴを岩と同列に思っている人はあまりいないであろうが、頭の中のどこかでいまだに岩扱いしている人が結構多いのではないだろうか。
枝状やテーブル状に群生するミドリイシはともかく、ハマサンゴやキクメイシと呼ばれるサンゴはバトゥ(岩)と言った方が感覚的にも分かりやすい。
サンゴ虫やその他の生物の死骸がどんどん積み重なって出来た石灰質の構造物がサンゴ礁であり、その内部は結局のところ石灰石と同じなのである。よって、サンゴ礁=バトゥもあながち外れではない。
■サンゴは白い?
♪青い海原 群れ飛ぶカモメ〜 心ひかれた白いサンゴ礁〜♪
今の若い人は知らないかもしれないが、それなりの年齢の方ならフンフンフンと節が出てくるあの歌(今でもカラオケ屋にはありますぞ)。サンゴ礁のイメージはあくまでも白く、どこまでも青い海の中にひっそりと眠って(?)いなければならない…というのが大勢の方の感覚ではないだろうか。
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サンゴ礁の住人たち
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確かに、熱帯魚屋サンや観光地のお土産屋で売っているサンゴって真っ白。でも、ちょっと待って。新聞や雑誌で「サンゴの白化現象」云々なんて記事に覚えがないだろうか? 元から白かったら、なんで白くなることが取り沙汰されるのだろう?
そう、少しでも熱帯の海をのぞいたことのある人はもうお分かりのように、生きているサンゴっていうのは通常は白くはないのだ。薄い茶色系統の色が主体で、この「茶色系統」っていうところがポイントなのだ。このことは後日、少し詳しくお話ししよう。
サンゴは死んでしまうと白くなる。これは石灰質なんだから当たり前と言えば当たり前で、いわゆる白い砂っていうのはサンゴの砕けたものが主体となっている。だから、サンゴ礁の所々にある砂は、これは本当に白い。
サンゴ礁の発達する海は元々透明度の良い海なのだから、海はあくまでも青い。その青を背景に、白い砂地に薄茶色の石ころ(サンゴ)が連なり、その上に黄色や緑の一見植物風のヒドロ虫の仲間たちが乗っかっている、というのが、サンゴ礁の海の風景なのだ。だから、一般のイメージはそれほど外れているわけではない。
■「家」と「食」
さて、サンゴ礁は、各種サンゴが発達することで、あっちこっちに、たくさんのすき間を持った複雑な形態となっていく。
魚釣りをする人はご承知のように、魚は海ならどこにでもいるというものではない。いるところにはいるし、いないところはいくら探してもいないのである。
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一見、岩のようなキクメイシだが、夜になると触手を広げて岩ではないことが分かる
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人間の生活の三条件として、衣食住という言葉がある。海の生き物たちにとって、「衣」はともかくとして「食」「住」を提供しているのが、釣師たちが「根」と呼ぶ海中の岩場であり、サンゴ礁なのだ。
まず「住」を見てみよう。
食物連鎖の中間に位置する多くの魚たちにとって、隠れ家の確保というのはまさに死活問題であるが、小さなすき間の多いサンゴ礁は絶好の隠れ家を提供している。比較的大きい部類のブダイの仲間でさえ、夜眠る時はそうしたすき間の中に入っている。
ナイトダイブをしてみると、昼間いた魚たちがほとんど見えない。みんな良い子で、日が暮れるとそれぞれのお家に帰ってしまったのだ。サンゴのすき間をのぞくと、そこで爆睡していて、軽く触ったぐらいじゃ目を覚まさない。
生き物っていうのは寝ている時が一番無防備だから、それぞれが安全な場所をちゃんと確保しているのだ。同じように、スペアガンとかモリで傷ついた魚は、大きさにかかわらず、やはり岩陰に逃げ込もうとする。
次に「食」なのだが、そこにたくさんの魚たちが住むようになれば、当然のことながらその魚たちをえさにしている食物連鎖の上位の魚たちも集まってくる。人の集まるところには、スリや泥棒も集まってくるのと同じ原理である。
じゃあ食物連鎖の下位の魚たちは「食」の恩恵がないのかというとそんなことはない。新しいオフィスビルの裏にはいつの間にか屋台が建ち並ぶように、甲殻類をはじめとするたくさんの生物がちゃんと群れているのだ。そもそもチョウチョウウオの仲間のようにサンゴのポリフ自体を食べている種類だっているのだ。
このようにサンゴ礁は大きな一つの生態系(エコロジー)を形成しており、その観察は非常に興味深いものである。
潜水時間に限度のあるスキンダイビングでは苦しいが、スキューバーを使って水深5−10メートル辺りでまったく泳がずに、じっとサンゴ礁の生物たちの活動を見ているのもおつなものである。(
つづく)