サンゴ礁の伝説、オオシャコガイ。そう、人魚が中に座っている、あの大きな貝である。実際、殻の長さが1メートル以上、重さにして200キログラム以上のものもある。記録に残る世界最大のものは、幅136センチ、片側の貝殻の重さだけで263キログラムだった。世界最大の貝である。
筆者も何度か実際に見ているが、そりゃ、気味の悪いくらいにでかい(水中では、大きく見えるのでなおさらだ)。
人を食べるという伝説を信じてしまいそうになるが、実際には、オオシャコガイの口はぴったりとは閉まらないから(閉めても10センチ近い隙間が出来る)貝にかまれるというのはあり得ないのだが…。
シャコガイには、いくつか種類があるのだが、一番小さい種類のヒメジャコガイで大体15センチぐらいで、プラウスリブでよく見かけるヒレジャコガイで約30−40センチである。なんで、あんなにでかい貝を作れるかというと、その秘密は、やっぱり褐色藻なのである。
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これでも小さい方のオオシャコガイ
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■光を食べる貝
シャコガイが口を開けていると、金属系のようなキラキラした膜が見える。これは水管の肥大したものであり、いわば褐色藻の培養室なのである。水管の表面には無数の眼が有り、光量や光の波長を調整して、褐色藻に光を届ける役割をしている。
褐色藻への依存度は半分程度(ほとんどがそうだという説もあるのだが)といわれているが、太陽光さえ豊富に与えていれば、プランクトンなしでも結構、生きている。「光を食べる貝」と呼ばれる所以である。
ジャカルタ市内の熱帯魚屋で、シャコガイの水槽は水が浅く、直射日光が当たるように天窓になっている場所か屋外に置いてあるのは、そういう理由による。
シャコガイは、小さな種類のものは別にして、ほとんどの種類が保護指定されており、ここインドネシアでも同様である。にもかかわらず、プラウスリブ辺りで、シャコガイの刺身なるものを食べたことのある方が結構いるのではないだろうか?
■禁断の味は
某島のレストランでは、ウエイターが「シャコガイの刺身はどうだ」などと聞いてくる始末である。他の島でも、日本人と見れば「シャコガイ、シャコガイ」と売り込みに、漁師もどき(本物ではない)が現れる所もある。
筆者も昔、ものは試しにと食べたことがある。磯の香りのする淡白な味で、法律を犯してまで食べる禁断の味ではない、というのが正直な感想であった。
ところが、昔から、シャコガイは熱帯海域の漁民にとっては、重要な水産資源であった。そりゃ、そうでしょう。せこせこと、せいぜい大きくて10センチの他の貝を採って来るより、一個で数十センチのシャコガイの方が手っ取り早い。
■21世紀型食料?
沖縄では、現在でも結構、食用にされており(ヒメジャコガイがおいしいらしい)、養殖と放流用で年間100万個以上、種苗生産して配布しているそうだ。
一般に養殖漁業は給餌が必要で、カキなどの貝類養殖も、成長や身入りは天然餌料に左右されるが、シャコガイはなんせ「光を食べる貝」なのだから給餌の必要がない。貝殻で二酸化炭素が固定され、軟体部で動物性タンパク質がつくられる「21世紀型の食料」として、これから特に、注目に値するのだそうだ。
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シャコガイの刺身
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「…そうだ」の伝聞体が続いたが筆者も少し眉唾(?)の半信半疑状態だからである。
オオシャコガイの方は、どうも、そう簡単ではなさそうで、沖縄を含む日本近辺では絶滅したとされている。
■メナドに生存
インドネシアでは、カリマンタン北部の知る人ぞ知るダイブリゾートであるデラワン島の桟橋近くに、かつては1メートル級のものが3個生存していた。だが、数年前に再訪したときには2個がお釈迦になっており、残りの1個も現在はどうなっているかは分からない。
メナドのフクイポイントという場所には、5個のオオシャコガイが現在でもある。1メートル級の立派なオオシャコガイではあるのだが、5個が平行に並べて「陳列」されており、人為的過ぎて興味をそがれる。どうしてもオオシャコガイを見たい人は、それでも見られるから、よしとしよう。
オオシャコガイは、外套膜の部分がブヨブヨに肥大した醜い怪物という感じで、さすがに、これを見て食欲を増進させる方は少ないのではないだろうか。
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つづく)