香料を求めて大航海時代の幕を開き、十六世紀には「香料諸島」マルクに到達したポルトガル人とスペイン人の手で、逆に、インドネシアへ伝えられた香料がある。南米産のトウガラシだ。新大陸で発見、「コショウより辛い」と飛びつき、世界に広めた。インドネシアでも欠かせない食材となった。
 | 牛田香さんのプルチン・カンクン
|
|
 | ササックの村で、赤や緑のトウガラシが軒下に干してあった
|
|
 | 一面のカンクン畑
|
|
 | 「ロンボクにいると心が豊かになる」と牛田香さん
|
|
ジャワ語でトウガラシを「ロンボク」と言う。ピジョーのジャワ語辞典によると、「kelombok」は「(手が)焼けた(焦げた)」という意味。「焼けるような強い刺激や、刺激のあるものをlombokと言ったのかもしれません」と加納啓良・東大教授。
ロンボクの島名はジャワ語の「ロンボク」に由来するようだ。
ロンボク島の象徴は今もトウガラシだ。ロンボクの人々は「ロンボクのトウガラシが一番辛い。種をジャワに持って行って植えても、辛いトウガラシにはならない」と自慢する。
トウガラシに次いで有名なのが、水草のカンクン。乾燥の激しい南部に比べ水の豊かな中部ロンボクには、カンクンの青々と茂る畑が広がる。茎が太くて柔らかい。
「プルチン・カンクン」は、さっとゆがいたカンクンを、トウガラシなどをすりつぶしたロンボク特製サンバル(プルチン)で和えた料理だ。
美しい緑色にゆで上がったカンクンに、プルチンと、ピーナッツやモヤシなどの付け合わせ野菜を混ぜて食べる。ぬめりのあるカンクンが、トウガラシで刺激しながら喉を通り過ぎると、たっぷりの栄養素を体が吸収している気になる。元気が出そうだ。
「インドネシア料理の中で、油を使わずゆでるだけというのは珍しい。健康のためにいいです」と、京都府出身の牛田香さん(三三)。父の衛さん(六五)と中部ロンボクのナルマダ郡でリンジャニ・カントリークラブを経営する。
ゴルフ場のレストランで、カンクンをみそ汁の具に使ってみたところ、お客様に「軟らかい」と、びっくりされたそうだ。香さんはプルチン・アヤムが好き。「ご飯がたくさん食べられます」。
京都で呉服屋に勤めていた香さんは、一九九九年五月からロンボク在住。九二年七月、初めて来た時に夕焼けを見た。
「日没後の空に雲がうっすらオーロラのようにかかり、空全体がオレンジ色になった。その美しさに感動し、ロンボクの素朴さのファンになった」
ロンボクの良さは自然と人という。ゴルフコースをちゃかちゃか早足で歩いていると、キャディが「カオリさん、カオリさん」と呼び止め、雲の影が移動するのを教えてくれた。「うわあ、すごくいい風」と、風を教えてくれたこともある。
「そういう心の余裕を持っているのがすごい。心のゆとりを探す毎日。ロンボクの青い海、青い空から元気をもらっている」
■プルチン・カンクン
【材料】
カンクン 1束
モヤシ 約30グラム
長豆 1束
すだち 1個
トマト 2個
トウガラシ(チャベ・ラウィット) 4個
トラシ 小さじ1/2
赤砂糖(グラ・メラ) 小さじ1/2
塩 小さじ1/4
【作り方】
(1)カンクンは手で2つか3つに折る。約5分間煮て取り出し、冷水に浸ける。手で食べやすい大きさに裂く。
(2)トウガラシ、トラシ、塩、赤砂糖をすりつぶし、トマトを加え、最後にすだちを絞る。
(3)カンクンに(2)を載せ、揚げたピーナッツ、クラパ、モヤシ、長豆などを添え、すだちを飾る。
■プルチン・アヤム
【材料】
鶏肉 1キロ
トウガラシ(ロンボク・ブサール)5本
トラシ 適量
塩 適量
砂糖 適量
すだち 適量
【作り方】
(1)鶏肉をぶつ切りにし、いためる。
(2)香辛料をすべてすりつぶす。
(3)油で香辛料をいためてから、鶏肉を入れ、いためる。
(4)鶏肉を取り出し、すだちをかける。