東ジャワ名物の真っ黒いスープがあると聞いた。
「ラウォン」(rawon)を作ってくれることになった、スラバヤ出身のサンティさん(三九)にスラバヤはどんな所かと尋ねると、「第一に、暑いです」と言う。ジャカルタよりも、もっとずっと暑いのだそうだ。
暑い上に黒いスープ。なかなか濃厚な取り合わせだ。味も力強いに違いない。イメージが勝手に膨らむ。
サンティさんは、ジャカルタの語学学校で、日本人にインドネシア語を教えている。高校生の時、書道の文字の美しさに魅せられ、漢字を学んでみたいと思ったのが日本語を学ぶきっかけだ。
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東ジャワ名物の真っ黒なスープ「ラウォン」
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「日本人は皆、勉強熱心です。生徒たちは、バティックや料理など、インドネシアの文化に興味を持っているので、うちに遊びに来て、一緒に料理を作ることもあります」
南ジャカルタの家で、サンティさんと、タンゲランから遊びに来ていた母親のヘルブディヨさん(五九)が、一緒に料理を作ってくれた。
ヘルブディヨさんがすり石(gilingan cabe)でスパイスをする手つきは慣れていて素早い。材料をすったり、いためるたびに、台所にはさまざまなスパイスの芳香が漂う。
スパイスをすりつぶす時からすでに、材料は真っ黒。黒さはクルワック(kluwak)という木の実のせいだ。
灰褐色で、くるみほどの大きさ。堅い殻を石でたたいて割ると、焦げ茶がかった黒い実が入っている。触ると柔らかい。やわらかな苦味がある。クルワックを使う料理はラウォン以外にはないようだ。
それにしても、たくさんのスパイスを使う。ショウガ、クンチュールなどは似たような見かけで、香りも似ている。それを小さじ一、小指一本分など、少しずつ加えることが、どのように味を変えるのか、正直なところ分からない。ところがサンティさんは「どれが欠けても、作れない」と言う。
二人の連携プレーで料理が出来上がった。
やはり、黒い。しかし、黒い色からは想像のつかない、意外にもさっぱりとしたさわやかな味だ。使用しているスパイスがレモングラスやショウガなど、さわやかな香りのものが多いからだろうか。
ご飯にかけながら食べる。辛さはサンバルで各自が調整し、クルプックやアヒルのタマゴの塩漬けを付け合わせにする。
暑い所の、黒いスープには、見た目を裏切る味と香りが隠されていた。スパイスのかもし出すインドネシア料理の意外さと奥深さに、どんどんはまり込みそうな予感がする。
ヘルブディヨさん(左)とサンティさんの連携プレーで料理が出来上がった
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 | 黒さの秘密はこのクルワックの実
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■材料
牛肉(もも)500g
〈スパイスA〉
ブラックナッツ(kluwak)5コ
コリアンダーシード(ketumbar)小さじ1
クミンシード(jinten)小さじ1
ウコン(kunyit)小さじ1
ショウガ(jahe)小さじ1
クンチュール(kencur)小さじ1
キャンドルナッツ(kemiri)5コ
赤唐辛子(大)(cabe)2本
赤小玉ネギ(bawang merah)5コ
ニンニク(bawang putih)2片
コブミカンの葉(daun jeruk)6枚
レモングラスの茎から根元の部分(sereh)1本
塩 小さじ1
砂糖 小さじ1
ヤシ油 大さじ1
うまみ調味料 適量
葉ネギ(daun bawang/kucai)10本
もやし(生食用の短いもの)(taoge)適量
■作り方
(1)水2リットルに塩少々を入れ、牛肉を固まりのまま1時間ぐらいゆでて、スープをとる。肉は取り出してこま切にする。
(2)kluwakの殻を取った中身と、スパイスAをすべてすり石かブレンダーでペースト状にし、混ぜ合わせる。
(3)フライパンにヤシ油大さじ1を熱し、(2)とコブミカンの葉、根元を石でたたいてつぶしたレモングラスを入れて、よく炒める。
(4)牛肉と(3)を肉のゆで汁に入れて煮る。15分ぐらい煮たら、刻んだkucaiを入れて火を通し、塩、コショウ、うまみ調味料で味を整える。
(5)皿に盛り、生のもやしを散らす。