ソニーの撤退で外資逃避への危機感が高まる中、日米韓の投資家代表とインドネシアの労組幹部ら約五十人が十九日、ホテル・インターコンチネンタルで意見交換会を開き、ジャパンクラブ(JJC)の中川勉理事長(東京三菱銀行ジャカルタ支店長)と森田順二労働小委員会委員長(TIFICO社長)がメガワティ政権との政策対話の状況や、投資環境整備に関する日本の投資家の要求を突き付けた。国会労働法特別委員会のレクソ・アゲン・ヘルマン議員が呼びかけたもので、国家経済復興委員会のソフヤン・ワナンディ議長、インドネシア国際商工会のジェームス・キャッスル代表、インドネシア韓国商工会の宋昌根事務局長らも出席した。
中川理事長は、国際競争力が問われる時代を迎え、インドネシアにとって投資環境の早急な整備は避けて通れない問題だと強調。
裾野産業やインフラが未発達であることから、コストや納入時期の遅れが発生、労働コストも中国と同レベルだが、今後、最低賃金が上昇した場合、中国を上回ることになる。生産性は中国が六〇─一〇〇%上回っているため、総合的にみると、投資環境に大きな差が生じていると指摘した。
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ホワイトボードに数字を書き、労組幹部に国際競争力強化を説く中川さん
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日本のインドネシア向け投資額は、一九九六年には七十六億ドルだったのが、二〇〇二年には三億ドルまで落ち込み、来年もさらに減少するだろうとの見通しを示し、早急な投資環境整備を訴えた。
中川理事長によると、今年に入りインドネシアからの撤退を決めた日系企業は、家電、繊維を中心にソニー、アイワなどを含め十社に上るという。
また、日系中小企業ではコストの一〇%ほどが「袖の下」に消えているという実態を紹介。汚職問題に加え、密輸、税金、電力不足問題などが新規投資の障害になっているとして、真剣な対応を政府に求めていると説明した。
森田委員長は、労働問題が最も重要な問題と位置付けた上で、違法ストや解雇の問題を早急に解決するために、審議中の労働関連二法案についてJJCが提言書を国会に送付したことを明らかにした。
TIFICOは中国とタイにも工場を持っているが、両国と比べてもインドネシアの状況は悪化していると指摘した。
二人の講義に先立ち、プレゼンテーションを行った韓国の宋事務局長は、二〇〇一年十月から二〇〇二年八月までに、繊維や玩具を中心に四十二社の韓国系製造企業が撤退したと明らかにした。
インドネシアと中国、ベトナム、ミャンマーなどの労働環境を比較し、いかにインドネシアが競争力で劣っているかを解説。最低賃金はドルベースで、インドネシアが月当たり六十二ドル、中国が七十四ドル、ベトナムが四十ドル(外国人雇用の企業)と、いまのところ、中国より低い水準にとどまっているが、週五十時間労働で生産性を加味した場合、中国の八十一ドル、ベトナムの七十三ドルに対し、インドネシアは百十五ドルに跳ね上がるとの数字を紹介した。
最近、訪問したベトナムでの体験を基に、メードの若い女性が、半年間お金を貯め、中古コンピューターを購入して勉強したり、タクシーの運転手の英語熱、ホテルの繁栄ぶりなどの事例を挙げ、ベトナム人の向上心、勤勉性が、はるかに高いと強調、インドネシアも見習うべきだと語った。
キャッスル会長は、労働組合幹部に向け「ノー・インベストメント、ノー・ジョブ」と明快に語りかけ、国民すべての繁栄のために労働組合も努力すべきだと主張。雇用を確保する観点から、労働集約産業の維持発展に取り組み、労働法案を早急に成立させることが重要だと述べた。
ソフヤン議長は「これだけの外資企業が撤退していることを初めて知り驚いている。インドネシアには、密輸や汚職、税金、労働問題など多くの障害が残っており、これ以上取り残されないよう改革をスピードアップしなければならない」と主張した。
全インドネシア改革労働組合連合のムハマッド・ロジャ事務局長は「減税や石油燃料、電力、通信など事業コストの削減が急務だ。政府は二─三年の間、この問題に注力して、これ以上投資家が撤退しないようにすべきだ」と述べた。
一方で「現在の中国やベトナムの状況は、インドネシアが一九七〇年代に経験してきたこと。外国の投資家は、インドネシアの状況も考えてほしい」と述べた。ほかの労組団体参加者からも「経営者側は透明性を高めるべきだ」などの声が上がった。
経済のグローバル化が急速に進み、インドネシア企業の国際化は避けて通れないとの声が実業界から強まる一方で、労働側は、インドネシアの発展段階や特有の社会事情を考慮すべきだとの意識が強い。実業界と労働界の間に横たわるギャップが浮き彫りになった会合だった。