「タイソンとホリーフィールドのボクシング世界タイトルマッチと同じくらいタフな戦い」(ジャカルタポスト紙)−インドネシアの通信業界を二分してきたテルコム社とインドサット社の市場競争が激化している。政府は二〇〇〇年九月、両社の特権を一部排除する新電気通信法を施行、今年八月には、インドサットの独占だった国際電話市場へのテルコム参入が認められた。一方で両社は、急成長を遂げる携帯電話、CDMA方式の無線固定電話の各市場でもサービス競争を展開。規制緩和に伴う二大企業の競争が、インドネシア通信業界に劇的な変化をもたらし始めている。
インドサット社 本社・ジャカルタ。1967年、政府と米国ITT社の合弁企業として設立、80年に国営企業に。82年、電気通信公社が、国内通信と国際通信を効果的に分割するため、ジャカルタにあった全ての国際地下ケーブル、国際オペレーター、ゲートウェイの権利をインドサットに譲渡、インドサットは逆に同公社に国内通信分野の資産を受け渡した。
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▲中央ジャカルタ・ムルデカ・バラット通りのインドサット本社
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▼西ジャワ州バンドン・ジャパティ通りのテレコム本社
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テルコム社 本社・バンドン。前身は電気通信公社(PERUMTEL)。1989年、電気通信法の改定を受け、国内電気通信分野の中心的事業体と位置付けられると同時に、民間資本の一部導入が認められた。インドネシア全国を7地域に分け通信網を管理している。
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■インドサット民営化
テルコム、インドサットがそれぞれ独占していた市内電話、長距離電話、国際電話の各市場は、昨年八月からの一年間で順次、独占から二企業の複占に規制緩和された。
一方で、インドサット社の政府保有株四一・九四%がシンガポール・テクノロジーズ・テレメディア(STT)社に売却され、インドサットは民間企業に衣替えした。
インドサットは、携帯電話分野などで子会社サテリンドと垂直統合する計画を進めており、テルコム社との激戦に耐え得る社内改革を着々と進めている。
■IP電話で格安料金
二社の勝敗を分けるカギの一つがIP電話。「VoIP(ボイス・オーバー・インターネット・プロトコル)」の技術を用い、ブロードバンドの利点を最大限に活かした新しい通話方法だ。
インターネットのメールと同様、音声データをやり取りすることで、通話料を最低でも国内電話で四〇%、国際電話で六〇%切り下げることが可能とされる。
ブロードバンドがすでに普及した日本では、「Yahoo!BB」をはじめ、多くのプロバイダーやベンチャー企業がIP電話サービスを開始している。
インドネシアでは現在、国内五社にライセンスを特化。IP電話が急速に普及すれば、電話会社にとって利益の大きい長距離電話市場が消滅しかねないため、政府は慎重に導入を検討している。
■携帯電話1400万人
テルコムの攻勢に対し、インドサット・グループは、サテリンドの国際電話サービス「〇〇八」の最大四〇%割引などを実施。市場固守に打って出る構えだが、同社の視線は、すでに別の市場に向き始めているようだ。
同社によると、二〇〇〇年の同社収益の七三%を占めた国際電話部門の売り上げは、今年上半期には二七・一%まで低下した。代わって、携帯電話の収益が五五・四%まで増加、インドサットの戦略が、国際電話市場から徐々に携帯電話市場に推移していることが読み取れる。
携帯電話事業者協会の調べによると、今年末までに、インドネシアの携帯電話利用者は全国で約千三百九十万人に達し、固定電話加入者の約八百六十万人を大幅に上回る見通し。
この市場でも、テルコム(テルコムセル)やインドサット・グループ(サテリンド、IM3)に加え、数社が群雄割拠し、顧客獲得に向けたサービス競争を展開している。
■無線固定電話の普及に注目
独立行政法人・国際協力機構(JICA)専門家として、運輸通信省郵電総局に派遣されている関口博久さんは、第二・五世代以上に属するCDMA方式の無線固定電話の今後の普及に注目する。
CDMAは、高度なデータ通信も可能とする次世代通信方式。
「各家庭に有線電話を引くにはある程度の投資が必要だが、CDMA方式の無線固定電話の場合、基地局一つあれば、半径五キロ以上の地域をカバーできる。この国の電気通信事業を考えれば良い選択」と関口さんは指摘する。
現時点では数万人規模の市場ではあるが、通信業界の「大きな基軸になる」(関口さん)ことが確実視されており、将来の需要増をにらみ、テルコムとインドサットの間で現在、基地局の敷設競争が続いている。