戒厳令下のアチェを除き、テロも無く爆竹も無く、経済回復へ希望を抱かせる二〇〇四年を迎えた。今年は、総選挙と大統領直接選挙で政治家も有権者も熱く燃える政治の年。国際社会は未熟な政治に不安を感じつつ、「選挙さえ乗り切れば」と投資機会をうかがう気配もみられる。首都も地方も、そのようなムードが支配的なだけに、大晦日の年越し騒ぎも例年より抑制気味。宗教抗争が集結に向かうマルク州は、新年を「アンボン経済・治安回復年」と宣言するなど、各地で、落ち着いたカウントダウン風景が見られた。
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新年を祝い、ホテル・インドネシア前ロータリーに集まった大群衆
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首都ジャカルタ名物の爆竹はすっかり姿を消した。テロ取り締まりに合わせ、生産も販売も監視する当局の方針が功を奏し、爆発音の喧噪に包まれた年越し風景は見られなかった。
心配されていた雨も無く、さまざまな催しを開いた行楽地は、延べ数十万人の市民でにぎわった。ジャカルタ警視庁は、制服警官一万一千人を配置、警備に当たったが、混乱はなく、平穏のうちに二〇〇四年の幕が開けた。
ジャカルタ湾に面したアンチョール公園には、人気歌手イヌル・ダラティスタ、郊外のタマン・ミニには、イヌルの腰振りダンスを批判して話題になったダンドゥットの王様ロマ・イラマが、大観衆の前でマイクを握った。
アンチョール公園に駆け付けたスティヨソ・ジャカルタ特別州知事は「首都の治安は総選挙の成否を示す指針になる。総選挙に向け、ジャカルタの治安を維持することに協力してほしい」と市民に呼び掛けた。
カトリック、プロテスタントの教会では、華人系のキリスト教徒を中心に、ミサが行われ、平和な新年を祈った。米国のアフガン、イラク攻撃で宗教間の対立が厳しくなり、その余波に巻き込まれてきた世界最大のイスラム人口のインドネシア。経済回復のけん引役を担う華人たちは、宗教対立の無い二〇〇四年を祈った。
カトリック教会のカテドラル大聖堂で開いたミサでスギリ司教は「世界や、国内では多くの争い、貧困があるが、神を信じ敬う気持ちがあれば多くの問題を解決する事ができる」と述べて、集まった参加者を励ました。
過去五年間、見られなかった平和で落ち着いた雰囲気の新しい年は、若者たちのエネルギッシュな歌声や踊りに続くカウントダウンとともに訪れた。五年に一度の国政選挙を支えるのは、若い有権者の巨大な票田。マルク州知事が出した「アンボン経済・治安回復年宣言」も、オートバイのエンジンを吹かす若者たちによって大歓迎された。
ジャカルタの都心や郊外のアンチョール公園やタマン・ミニ公園に集結した群衆は、ロックコンサートやダンドゥット、ジャイポンガン、スジョジョなどおなじみのエンターテインメントに熱を上げ、家族連れも映画やワヤンを楽しんで二〇〇四年を迎えた。
| カフェ・テンダ・スマンギでは、打ち上げ花火で新年を祝った
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| タマン・ミニではロマ・イラマとイエット・ブスタミが共演した
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| 大聖堂で祈りを捧げながら新年を待つ女性ら
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■アンチョールに25万人
国民に絶大な人気を誇るダンドゥット歌手イヌル・ダラティスタ、ロックバンドのスランクらのコンサートを催した北ジャカルタのアンチョール公園は、約二十五万人の人出を記録した。
午前零時、ラッパの音とともに一斉に花火が打ち上げられ、会場は最高潮。
■タマンミニで花火復活
ダンドゥットの王様ロマ・イラマらが出演したタマン・ミニは、首都圏の若者や家族連れで身動きが取れないにぎわいとなり、昨年の十万人を超える十一万五千人に達した。
昨年中止した花火大会を復活させ、ワヤン・クリット(影絵芝居)を四カ所で同時上演、西ジャワ・スンダの伝統舞踊ジャイポンガン、野外での映画上映など盛りだくさんのイベント。
ザマン広報部長は「バリ島爆弾テロの余波で厳戒態勢を取った昨年と比べ、今年は五千万ルピアを投入したフランス製の花火で盛大に祝った」と語った。
■ホテルでスジョジョ大会
ホテル・インドネシア前のロータリーでは、午前零時、ホテルの屋上に「新年おめでとう」のインドネシア語の電光版が点灯されると、噴水を囲んでいた群衆約五万人が、一斉に新年のあいさつを交わした。
小型の花火も紙ラッパの数も、昨年より少な目。それに代わって、車やオートバイのクラクションやエンジンをけたたましく鳴らす若者が増えた。
ホテル・インドネシアのロビーでは、恒例のダンス大会。昨年、庶民に広がったパプア生まれのダンスと言われるスジョジョ・コンテストで盛り上がった。
■「デワ」が登場も・・・
南ジャカルタのカフェ・テンダ・スマンギ(KTS)ではミュージシャンの年越しライブ。人気ロックバンドのデワがメインとあって、多くのファンが集まった。
カウントダウン直後には百発以上の打ち上げ花火が上がり、来場者の目を楽しませたが、お目当てのデワは四曲を演奏しただけ。テレビで生中継されていたため、CMの間はライブが中断されたこともあり、いまいち盛り上がりに欠けるイベントとなった。
入場料も庶民にとっては高額の五万ルピア。会場周辺は、中に入れなかった若者で溢れ返った。
■カトリック教徒はミサ
中央ジャカルタのカテドラル大聖堂では、約四百人のカトリック教徒が集まり、ミサが行われた。聖歌、司教のスピーチ、麻薬問題を取り上げたドラマなどが行われ、楽しみながら参加した。
新年十五分前になると、参加者が手をつなぎ、スコットランド民謡「蛍の光」を合唱し、カウントダウンへ。午前零時、聖堂内に紙ラッパが鳴り響き、「スラマット・タウン・バル」と声を掛け合いながら新年の喜びを分かち合った。
■富裕層はホテルで
ジャカルタや観光地の高級ホテルは、クリスマスから部屋を貸し切ってパーティーを行う富裕層の家庭も。家族や親しい友人たちと、海外からの宿泊客が一緒になって歓声を上げる光景が見られた。
ホテル側も、趣向を凝らしたさまざまなイベントを用意。ジョクジャカルタの五ツ星ホテルのホテル・ハイアットでは、各部屋にオランダから直輸入したポインセチアの花を飾り、宿泊者の目を楽しませた。前庭で開いた「カウントダウン・パーティー」には、世界各地から訪れた数百人の宿泊客も参加し、新年を祝った。
■州知事が市民とパレード
マルク州アンボンでは、三年以上抗争が続いたイスラム教徒とキリスト教徒数万人が、市内の大通りや広場を行進した。
「新年を迎えるに当たりマルク州のイスラム教徒とキリスト教徒は、ともに平和な集会を開くことができた。対立を乗り越え、双方が協力し、アンボンの平和と治安を守っていこう」
マルク州のカレル・アルベルト・ララハル知事は三十一日夜、アンボン市内の独立広場で、こう呼び掛け、一九九九年初頭から五年間にわたって血みどろの抗争を続けてきた紛争を終結させる決意を表明。二〇〇四年を「アンボン経済・治安回復年」と宣言した。
この後、ララハル知事は車やオートバイに乗った市民とともに、独立広場からパティムラ空港まで四十五キロをパレード。長かった宗教紛争の終結を印象付けた。
東ジャワ州スラバヤ、西ジャワ州バンドンなど、そのほかの地方都市でも、爆弾事件があったアチェ特別州以外は大きな混乱はなく、平穏な正月を迎えた。