安定したルピア高が続いている。イラク戦争開戦前の一ドル九一七五ルピアを境に、今月二十六日には八一〇〇ルピアを付けるなど、約二カ月で一〇%の上昇率を記録した。一九九七年の通貨危機以降、ルピア相場にとって、安定期を経た後、なだらかに上昇していくのは初めての経験。現在のルピア高トレンドがビジネスに与える影響について、産業界の動きを追ってみた。
世界的な需要低迷に加え、国内では賃金上昇など相対的な投資環境の悪化によって、大きなダメージを受けている輸出主導の産業では、いまのルピア高トレンドがさらに業績悪化を招くと懸念されている。
インドネシア製靴業者協会のアントン・スピット会長は「通常は、三カ月分ほど蓄えている原料や部品の在庫のための費用が膨らんでおり、製品の販売価格に影響する」と述べ、国際競争力低下の懸念を表明。「早急に金利を下げるなど、何らかの代替策を考えるべき」と主張した。
一方で、帝人の現地法人であるTIFICO社は、数年前から製品の売買については、ドル建てで行うなど、ルピアの影響を受けないような体質に移行してきたこともあり、ルピア建ての従業員約二千人の給与支払いに若干の影響を受けるのを除き、直接的な影響はほとんどないとしている。
■歓迎の声も
内需を中心に好調な業績を維持している自動車業界では、今回のルピア高はコスト減につながるとして歓迎する声も上がっている。
ある日系自動車メーカー幹部は「大半は内需向けのため、その点では歓迎できる。その反面、急激なルピア高は、顧客から値下げの要望や買い控えが出てくることも予想され、安定的に強くなるのが望ましい」と語った。
国内向け自動車販売に加え、エンジンやCKD(ノックダウン)輸出も行っているトヨタ・アストラモーター社の山崎幸雄副社長は「輸入面ではコストが下がる一方、輸出面では収益圧迫の原因となるが、ルピア高もまだ短期で、今のところ、全体の計画を見直すほどの影響は出ていない」と述べた。
■今後を注視
また、ドル安による米国経済の停滞が、インドネシアを含む世界規模での不況を引き起こすことの方が、ドル安ルピア高より心配だとの声も聞かれた。
日本貿易振興会(ジェトロ)ジャカルタセンターの加藤裕之所長は「ルピア高が続いた場合の中期的な影響は注視していく必要があるが、日系企業は輸出企業でも原料の多くを輸入に頼っている場合が多いため、それほどの影響は受けないだろう」と分析。
「さらには、九七、九八年の(ルピアが暴落した)通貨危機の経験を踏まえ、日系企業については、ドル建ての取引を増やすなどルピアの変動の影響を受けないような体質に移行している」と語るように、今回のルピア高が、短期的に事業に与える影響はあまりなさそうだ。
■駐在員の家計を直撃
一方、日系企業の大半は、駐在員の給与をドルか円建てで支払っていることもあり、ルピア高は駐在員の家計を直撃している。
ある駐在員は「ルピアの上昇に加え、物価も上がっていて、一年前から比べると、生活費が二、三割膨れ上がったような感覚だ」と愚痴をこぼす。また、別の駐在員は「ここ数カ月でルピアが一〇%上がり、生活費が目減りした分、日本人向けの飲み屋さんも安くしてほしいですね」と冗談交じりに語った。
■通貨危機後のルピア
タイが震源の通貨危機がインドネシアに波及した一九九七年八月以降、ルピア相場は実質的な変動制に移行した。
スハルト政権退陣直後の九八年八月、一ドル一六九〇〇ルピアと最安値を記録したルピア相場はその後、総選挙実施の九九年六月に六五八〇ルピアを記録した。アブドゥラフマン政権が誕生した同年十一月から下落を始めた相場は、二〇〇一年五月の一ドル一二三〇〇ルピアを境にルピア高に反転、昨年五月ごろから一年弱の安定期を経て、今年三月末からなだらかな上昇を見せている。