インドネシアで竹の楽器と言えばアンクロンが有名だが、東ジャカルタ・チリリタンの聖ロベルタス教会では、竹のパイプオルガン作りが進められている。高さ六メートル、パイプ七百六本を使った大がかりなもので、作っているのはスワンディさん(40)をはじめとする、イスラム教徒のインドネシア人の職人たちだ。パイプと鍵盤に竹を使ったオルガンは、宗教や民族間の調和を目指すインドネシアで、どのような音色を響かせるのだろうか。
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オルガン制作中のスワンディさん(右)とラジノさん
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竹のパイプオルガンを作ろうと考えついたのは、インドネシア在住三十五年のオランダ人牧師ヘルマヌス・アリエ・ファン・ドップさん(66)。
神学校などで宗教音楽の講義を担当するファン・ドップさんは、フィリピンのラスピニャス教会に有名な竹のパイプオルガンがあることから、「インドネシアでもできるはず」と考えた。
パイプオルガン職人のスワンディさんは、元はグラフィック・デザイナーだった。一九八五年、中央ジャカルタのエマニュエル教会にあるパイプオルガン設計をファン・ドップさんに頼まれて手伝ったのをきっかけに、ファン・ドップさんに見込まれ、プロのオルガン作りに転向した。オランダ語の本を見て勉強する傍ら、ファン・ドップさんに聞いて作り方を習ったという。
スワンディさんが最初に作った大型の竹製パイプオルガンは、海を越えてベルギーに渡った。二つ目はメンテンのスンダクラパ教会に納められたが、普通の鉄製パイプだった。
今回作っているオルガンは、インドネシアで初めての、大型の竹製パイプオルガンになる。
モーターをつなげたふいごが別室に据え付けられ、三つの管から空気を送り込む。音色を変える「ストップ」の数は十四あり、二階部に作られた土台に竹パイプが配置される。
キーボードとペダル、土台部分はほぼ完成し、傍らに、準備ができたさまざまな太さや長さの竹パイプが束ねて置いてあった。
竹はボゴールのサラック山で採ったものだ。オルガンのほかの部分はヤシ、ティートリーなどの木を使っている。
設計図作成から始まってすでに一年半が経過、完成は七月ごろを予定している。
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2階の土台部の上に穴が空けられており、ここに竹パイプを立てる
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「竹パイプの音は鉄管より温かいと思う。私はイスラム教徒だが、教会に納めるオルガン作りは私の仕事。自然にこうなった。イスラム教徒とキリスト教徒の紛争は、政治的に仕組まれたものだと思う」とスワンディさん。
聖ロベルタス教会のアントニー・スタンタ神父は「インドネシアで初めての竹のパイプオルガンがわれわれの教会に出来上がることは誇らしい。プロテスタントのファン・ドップ牧師、カトリックの私、イスラム教徒の職人が力を合わせた結果だ」と語る。
ファン・ドップさんの東ジャカルタ・ポンドッククラパの自宅には作業所があり、注文を受けて小型のパイプオルガンやハープシコードを作っている。
作業所の隣の部屋には、完成した竹のパイプオルガンが五台、並べられている。
上に突き出た竹パイプが何層にもなって描く流線が美しい。ファン・ドップさんがいすに座ってオルガンを奏で始めると、思いのほか力強く、柔らかい竹の音色が響き渡った。
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竹パイプと木で作られたオルガンは見た目も美しい
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竹パイプオルガンを弾くファン・ドップさん
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