インドネシアの伝統薬として国民に定着しているジャムーの研究開発を推進しようと、インドネシア政府はこのほど、漢方薬の本場である中国の専門家を招いて初のセミナーを開催し、共同で伝統薬を開発していくことで合意した。熱帯植物が豊富なインドネシアでは、ジャムーなどの伝統薬は近代医学の研究対象として評価が低く、医療の現場では医薬品として利用されていない。数千年の歴史を持つ中国の漢方薬の知識や調剤技術を取り入れ、民間療法から一歩進んだ治療薬として開発しようという狙いだ。また、野放しになっている漢方薬の偽造品や、大量に流入する輸入品に対する規制を強化し、国産品を保護する方針だ。
医薬食品監督庁とインドネシア科学院(LIPI)が主催した「伝統薬開発セミナー」には、中国医薬管理局、中国医学科学院、浙江大学、漢方薬輸出入会社数社の代表が出席。メガワティ大統領が大統領宮殿で開会式を開催し、中国の出席者らと会談した。
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ジャムーとともに注目を集める漢方薬店(西ジャカルタ・グロドックで)
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アフマッド・スユディ保健相は「インドネシアにある三万種類以上の植物のうち約一千種が薬草で、製薬として利用されているのは四百種類。ブラジルに次ぐこの豊富な資源を利用し、漢方薬の伝統のある中国と協力し、開発を推進していきたい」と述べ、特に(1)伝統薬の広範な共同研究(2)国内に流通する偽造品に関する情報交換(3)インドネシアの薬草を利用した漢方薬の開発の三項目を挙げた。
セミナーで中国側は、漢方薬用の薬草の農場、製造、流通、研究状況などを紹介、インドネシアの研究者や業者の注目を集めた。
■研究者の交流も
今回のセミナーについて、LIPIの食品・薬学研究員ブロト・カルドノ氏は「大幅に遅れているジャムーの研究に対し、メガワティ大統領が強い関心を示しており、保健省もようやく重い腰を上げた」と評価する。
同氏によると、両国政府は約二年前、伝統薬の開発に関する覚書を締結したが研究者の交流は遅々として進まず、新たな研究に着手する予算もなかったという。
ブロト氏は「国内の植物の抽出物を浙江大に送るなど、共同研究に本腰を入れる環境が整いつつあるが、国内の研究機関は非常に限られている」と指摘。これまで東洋医学を研究する大学は、スラバヤのアイルランガ大医学部の短大しかなかったが、今年、ガジャマダ大薬学部に東洋医学学科が開設されるという。
ブロト氏は「伝統薬の研究は端緒についたばかり。伝統薬の先進国である中国やインドの研究者との交流が盛んになれば、西洋医学を超える医薬品がインドネシアの薬草から出てくる可能性もある」と伝統薬の潜在力に注目する。
■近代医療への利用
今回のセミナーを企画した漢方薬輸入会社サニー・グループのアフマッド・ホリッド氏は、「医者が処方する薬の価格が上昇し、ジャムーや安価な漢方薬の需要が高まっている」と話す。
ホリッド氏は「研究成果が出るまで時間はかかるが、特定の病気に対する効能が科学的に実証されれば、これまで健康食品としてのみ扱われてきたジャムーも医薬品として認知され、近代医学と併用することも可能になる。実際、中国やインドでは病院でも伝統薬を積極的に導入し、定着している」と述べ、長期的な視野で開発する必要があると強調した。
■国産品の保護を
未開発のインドネシアの薬草に着目する外国企業も増加。保健省によると、外国の製材会社が、インドネシア産の薬草を使用した健康食品などの特許権を取得するケースも出ている。
中国の大手漢方薬会社のインドネシア進出も相次いでいる。胡慶蝕堂(本社・北京)は昨年、北ジャカルタ・マンガドゥアに支店を開設、世界各国に支店を持つ老舗・同仁堂(本社・同)も、近くインドネシアに工場を建設するという。
保健省広報局は「国内の伝統薬の保護政策は不可欠。ジャムーや漢方薬は薬として認められていないが、今後、医薬品として扱う法律を策定する予定もある」と述べ、約千九百社に上る国内のジャムー会社の保護を優先する姿勢を示している。