グヌンハリムン(スンダ語で「霧の山」の意)国立公園は、ボゴールの西約四十キロメートル、ジャカルタから車で約六時間。ジャワ島で最大の熱帯林が広がり、絶滅の危機に瀕するジャワクマタカ、テナガザル、ヒョウをはじめとする多様な動植物が生息する。ジャカルタから最も近い国立公園として注目を集め、地元非政府組織(NGO)を国際協力事業団(JICA)が支援した、エコツアーへの取り組みが始まっている。
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わき水。グヌンハリムンはジャカルタの水源でもある
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JICA生物多様性保全プロジェクトが主催するエコツアーに四日と五日、参加した。参加者はジャカルタ日本人学校(JJS)の教諭ら二十人。公園内のチカニキ・リサーチステーションに宿泊し、朝と夜に熱帯林を散策した。
午前六時、窓を開け放つと、川の水音、鳥の声など、さまざまな森の音が流れ込んできた。晴れ上がった空に白い半月。原生林では、いろいろな音がするという。樹高三十メートルを超える大木が立ち並び、巨大なシダが生い茂っているが、鬱蒼とした「ジャングル」のイメージとは異なり、透けた印象で、日の光も射して明るい。
落ち葉の積もった、ぬかるんだ細い山道を歩いた。倒木をまたいだり、くぐったり、丸石の置かれた小川や、わき水のせせらぎを渡った。
「ウェーウェーウェー」「ギシギシギシ」「グルルルルー」。セミや鳥などの、いろいろな声が、上からも下からも聞こえ、にぎやかだ。「自然の音楽です」と公園管理官のモモ・スパルモさん(32)。
少し離れた木の上、黒くて尻尾の長いサルが五、六匹、枝から枝へ「バサバサッ」と渡って、侵入者に怒りの声を上げているのが見えた。
倒木には黒や赤のキクラゲが生え、その下に、おがくずのような土が、こんもり山形に積もっていた。クワガタなどの虫が砕いたものを菌糸が分解し、木は、こうして土に還るという。
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ランの一種
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地面に直径三十センチほどの、丸く浅く、掘られたような跡があった。モモさんが「ヒョウが前足で掻いた跡です」と教えてくれた。
茶色い小さなコオロギ、黒い羽根が虹色に光るトンボがいた。道の脇には、お城に似た、小さな蟻塚があり、赤っぽいアリが忙しく行き来していた。
夜は光るキノコを見学。懐中電灯を消すと、黄緑色のぼーっとした光が、あちこちに浮かび上がった。
光るキノコは夜光茸の仲間で、ラテン名はマイセナ。直径約一ミリという豆粒以下の小ささで、白色をしているが、光を消すと、黄緑の蛍光色で光る。
小川の付近には蛍もいた。光る種類のシダもある。夜の森には幻想的な光があることを知った。
エコツアーは違法伐採が問題となる中、地元住民と良い関係を築くことを目指す。JICA専門家の小沢晴司さんが中心となり、これまで三回実施した。
プロジェクト・リーダーの森康二郎さんは「グヌンハリムンは、ジャカルタの近くで自然が残っている場所として、ほかの国立公園とは違った意味で重要だ。地域の人に支持される公園管理のための一つの手段がエコツーリズム。公園にプレッシャーをかけず、地元にメリットがあるエコツアーを育てたい」と語った。
JJSの分領国治教頭は「空気がきれいな所に来られて良かった。カワセミやサルを見ながら、外で朝ご飯を食べたのが一番良かった」、原康雄・国際交流ディレクターは「普段見られない物を見られた。森の共生に感銘を受けた」と語った。
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チカニキ・リサーチステーションでは、スンダの歌で歓迎
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熱帯林を観察しながら散策するツアー参加者。中央が小沢さん
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■グヌン・ハリムン国立公園
1992年国立公園指定。バンテン、西ジャワの2州、ボゴール、スカブミ、レバックの3県にまたがり、広さ約4万ヘクタール。宿泊はチカニキ・リサーチセンター(1部屋10万ルピア)か、チタラハブ村のゲストハウス(同7万ルピア)。