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2004年9月1日−8日 じゃかるた新聞掲載

 宗教、文化、観光、自然など、さまざまの顔を持つ神々の島・バリ。多様性の国インドネシアでも、ひときわ異彩を放ち、世界中の人々を魅了し続けている。東京都の約二倍半の広さの島に、約三百万人のヒンドゥー教徒が住むバリ島の最近の姿を、ペンとカメラで追った。(11回続き)
バリ島を歩く(1)
 
自然にトップレス バドゥン県クタ海岸
たくさんの欧米人観光客でにぎわうクタ海岸
たくさんの欧米人観光客でにぎわうクタ海岸
 一昨年の爆弾テロ事件以降、大きく減少していた外国人観光客は、昨年末から徐々にバリ島に戻り始め、クタ・レギャン地区に限れば、すっかりテロ事件前のにぎわいを取り戻した。
 レギャン通りは観光客を乗せたタクシーやバイクで渋滞。新しいレストランやバー、ディスコも次々とオープンし、連日、深夜まで混み合っている。
 約一キロの砂浜が続くクタ海岸には、インド洋の荒波を求めて欧米や日本からたくさんのサーファーが押し寄せる。
 ここではトップレスの女性も珍しくない。日焼けクリームをたっぷり塗り、表を焼き、裏を焼きながら、堂々と日光浴を楽しんでいる。
 バリ人の女性は、かつて上半身裸で生活していた。欧米人はそれを奇異の目で見ていたが、それも今は昔。
 バリ人がまぶしそうに欧米のトップレス女性を眺める横で、欧米人はごく自然に上半身をさらしていた。

バリ島を歩く(2)
 
月光のタナロット寺院 タバナン県クディリ郡
オダランに備え、夜中でも電灯が点るタナロット寺院
オダランに備え、夜中でも電灯が点るタナロット寺院
 観光客の姿が消え、満月に近づいた月が辺りをこうこうと照らすころ、サロンを巻いて、お供え物を持った信者が次々と寺院に集まってきた。
 ウク暦に従って二百十日に一度、寺院の創立を祝う祭礼である「オダラン」を翌日に控え、儀礼の準備をする人たちだ。オダランの三日間、寺院には昼夜を問わず、バリ各地から信者が訪れる。 
 タナロット寺院は、満潮時に海の上にぽっかりと浮かぶことでも有名。雄大な夕陽が見られる夕暮れ時は観光客にも人気が高い。
 この美しいシルエット。日本の技術と援助によって守られていることは案外知られていない。
 インド洋の荒波が打ち寄せる岩の下の部分は実は、本物の岩ではなく、擬岩工法で作られたコンクリート。東京ディズニーランドなどで見られる人工の岩場と同じものだ。
 「日本のおかげで、この美しい寺院を後世に残せます」。帰り際に、オダランに向かう信者の一人に声を掛けられた。

バリ島を歩く(3)
 
般若も作るトペン作家
自宅裏の工房でトペンを制作するラドラさんと巨大なラマのお面
自宅裏の工房でトペンを制作するラドラさんと巨大なラマのお面
 芸能の盛んなウブド周辺には、仮面舞踏劇用のトペン(お面)を作る工房がいくつも点在している。
 ウブドに近いネガリ村に工房を持つラドラさん(四三)は、一九九〇年にトペン作家としてデビュー。まだ若手だが、デンパサール芸術センター主催のトペン・コンテストで優勝したこともある実力の持ち主だ。
 工房には、質感や重さなどが違うさまざまな種類の木が並び、十数種のノミとハンマーを使ってラドラさんが慎重に彫り進めていく。
 生計を支えるため、芸能用のバリのお面以外にも外国からの注文にも応じる。現在も、オランダの愛好家から依頼された、インドの叙事詩ラーマヤナの「ラマとシンタ」をモチーフにした高さ一・五メートルの大型面を制作している。
 「日本から、頭に角があって恐い顔をしたお面の依頼もありました」
 バリの木で作ったラドラさんの般若(はんにゃ)の面が、遠く、日本で活躍している姿を想像した。

バリ島を歩く(4)
 
芸能の町の「モダンダンス」 ギアニャール県ウブド
毎週日曜夕に開かれている無料のエアロビクス教室はいつも満員
毎週日曜夕に開かれている無料のエアロビクス教室はいつも満員
 土産物屋やおしゃれな雑貨屋が並ぶウブドの中心街を歩いていると、軽快なリズムに混じって「サトゥ、ドゥア、ティガ…」という掛け声が聞こえてきた。
 その声に誘われて、大通りから少し入ったところにある廃墟の中に入っていくと、一〇代から五〇代までの女性およそ五十人がジャージ姿で並んでいた。
 町内会の住民福祉サービスの一つ、「無料エアロビクス教室」には、鏡もなければ、インストラクターもいない。しかし、参加者は皆、真剣な表情で足を上げ、ステップを踏む。リズムが合わなくても気にしない。皆の楽しそうな雰囲気がこちらにも伝わってくる。
 「どんなものか試しにやってみたら、面白くて続けているわ。この中にはレゴン・クラトンなどの伝統舞踊の有名な踊り子もいるのよ」と参加者の一人。
 夜の舞台を前に、エアロビで一汗流す現代のバリの踊り子らの間を、バリ名物ののら犬がわが物顔でかっ歩していた。

バリ島を歩く(5)
 
神々しい光りを求めて
活火山バトゥール山の山頂で日の出を眺める観光客
活火山バトゥール山の山頂で日の出を眺める観光客
 午前三時半に起きて、バトゥール山(標高千七百十二メートル)に登った。
 懐中電灯と三脚を片手に登ること二時間。満天の星空が次第に白み始め、東の空が薄オレンジに輝き出したころ、ようやく山頂にたどり着いた。
 正面に聖峰アグン山とアバン山、遠く雲海の上にはロンボク島のリンジャニ山(三千七百二十六メートル)も浮かんで見える。
 山頂にはすでに五人ほどの欧米人観光客がいた。観光シーズンには毎日三十人ほどの外国人が日の出を眺めに来る。日の出の瞬間、皆、カメラを取り出し、記念撮影。
 現在も活発な火山活動を続けるバトゥール山への登山には、インドネシア観光業者組合から認定された山岳ガイドが同伴する。
 四年前には、ガイドなしで登ったドイツ人観光客が危険区域に入り込み、噴火に巻き込まれて亡くなる事故も起きている。
 この日登山に同行してくれたのはガイド見習い中の通称エロス君(二四)。厳重装備の欧米人とは対照的に、素足にビーチサンダルの格好ですたすた登る。
 山頂に一軒あるワルン(屋台)のお兄さんも、通い慣れた「通勤路」を、水やバナナを背負ってあっという間に抜かしていった。

バリ島を歩く(6)
 
黄金色の女神たち
収穫作業の合間にくつろぐ女性=ジュンブラナ県ポサンテン村で
収穫作業の合間にくつろぐ女性=ジュンブラナ県ポサンテン村で
 バリ西部のジュンブラナ県はジャワ島からの陸の玄関口。フェリー港のあるギリマヌックへ向かう幹線道路は、「スラバヤ行き」と書かれた長距離バスや農作物を満載した大型トラックがひっきりなしに通る。
 そんな幹線道路の両脇には、黄金色に輝く稲穂の「海」が広がり、インド洋の青色ときれいなコントラストを成している。
 収穫期を迎えた水田では、農民が水田にテントを張って泊まり込みで収穫作業に当たる。十人ほどの女性がたわわに実った稲穂を鎌で刈り、一カ所に積んでいく。
 稲の品種改良が進み、バリでは二期作、三期作も当たり前。田植えしている横で稲刈りという風景も珍しくはない。この水田でも「セラン」という品種を使い、六カ月に一度の収穫ができるようになった。
 休憩時に声を掛けると、意外と幼い声。麦わら帽子と頬(ほお)被りの間から、まだ十代と思しき優しい笑顔が返ってきた。


バリ島を歩く
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