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■写真グラフ「2003年の主な出来事」
2003年12月31日 じゃかるた新聞掲載

「昔は良かった症候群」

追い風吹いた1年だが

メガワティ人気衰える


 今年もテロが多発したが、政治や経済に決定的な打撃を与える事件は起こらず、メガワティ大統領にとって幸運な一年だった。領土保全とテロ対策を前面に掲げ、国内治安に専念して二年半。スハルト政権崩壊以来、最も治安が良く、経済成長率も三・八%を記録。国際通貨基金(IMF)管理を「卒業」して経済自立へ一歩踏み出した。だが、貧困、失業、物価高は、以前にも増して庶民を苦しめ、汚職追放など改革(レフォルマシ)を放置して政権維持に奔走する政治エリートへの反発は強まっている。メガワティ大統領の実行力のなさに、かつての熱狂的支持者は失望し、スハルト時代を懐かしむ「昔は良かった症候群」が広がり、大統領の足元を脅かしている。

爆弾テロで大破したホテルJWマリオットの正面入口(8月5日)
爆弾テロで大破したホテルJWマリオットの正面入口(8月5日)
禁固4年の判決を受けたバアシル被告(9月2日)
禁固4年の判決を受けたバアシル被告(9月2日)
 国家警察を狙った今年一月の爆弾事件に始まり、国連ビル、スハルノハッタ空港、国会構内、死者十二人を出した八月のホテル・マリオット事件と、テロの連鎖が続いた。
 スハルト政権が崩壊した一九九八年から現在までの五年間に、ジャカルタで起きたテロは六十件を超えた。ジャカルタ市民は毎月一回、テロの恐怖にさらされてきたことになる。インドネシアはテロの国。海外では、そんなイメージが固まった。
 一連のテロ事件で、国家警察が逮捕した容疑者は百数十人に上る。テロリストの裁判も始まった。ビルやホテルの持ち物検査は前例のない厳しさだ。
 ところが、テロ事件が一段落すると、何事なかったように平和な日常に戻る不思議な一年でもあった。ホテルがにぎわい、ショッピングセンターやモールは満員。消費ブームは衰えそうもない。
 イラク戦争をめぐる反米デモは、アフガン戦争当時の規模にはならなかった。一触即発の緊張が続いた数年前の社会不安は過去のものになった。
 メガワティ大統領も政治家としての自信をのぞかせた。国際社会の反対を押し切り、戒厳令を敷き、アチェ独立運動(GAM)の掃討作戦を国軍に任せた。独立運動を「テロリストの反乱」と決めつけ、一時、議論された連邦国家構想を封じ込めるほど民族主義的な装いだ。
 米国の怒りを無視し、パプア州のフリーポート社疎開地の米人教師襲撃事件の解明を遅らせ、日本の政府開発援助を「これは援助でなくローンです。借金はしたくない」と、鉄道完成のおめでたい席で述べたりするしたたかさも。
 「中国脅威論」がアジアで最も強かったインドネシアの大統領として初めて、対日・対中関係を「ゼロサムゲームでは考えない」と述べ、日本だけを頼りにしない姿勢を明確にするなど、素人らしくない外交発言もするようになった。
 米ニューヨークのテロ、アフガン戦争、バリ爆弾テロ、イラク戦争など、就任直後から米国の世界戦略に巻き込まれたが、内外のテロ事件を逆手にとって治安対策を強化。イスラム指導者に「テロとの決別」を宣言させ、インドネシアのイスラムをより穏健にさせた成果も大きい。
 だが、エリート意識が強いメガワティ大統領には大きな誤算があった。「命をかけてもメガワティ政権を実現する」と叫んだ熱狂的支持者が、一向に改善されない貧困や失業に失望し、「庶民のために何もしない冷たい大統領」と非難し始めた。汚職や癒着追放の公約を忘れ、「世界最悪の汚職天国」におとしめたと嘆く知識人も増えている。
 最近のほとんどの世論調査で闘争民主党への支持率が下がり、メガワティ大統領の人気も下降線をたどっている。
 そうしたメガワティ大統領を皮肉って、「スハルト時代の方が良かった」という庶民の声が高まっている。スハルト一家や守旧派の政治家が、大統領選挙に打って出ようとする動きはそれを裏付ける。
 「スハルト時代郷愁症候群」(Sindorome Amat (Aku) Rindu Suharto=SARS)が、あの恐ろしい病気のように国中に広がるかもしれない。メガワティ大統領と参謀の夫のタウフィック・キマス氏は、そのことを恐れているに違いない。
お気に入りの小泉首相と笑顔で杯を交わすメガワティ大統領(6月24日、迎賓館で)
お気に入りの小泉首相と笑顔で杯を交わすメガワティ大統領(6月24日、迎賓館で)
空港爆弾テロで、現場検証を行う捜査員ら(4月27日)
空港爆弾テロで、現場検証を行う捜査員ら(4月27日)

ジャカルタ日本人学校体育祭で息の合った組体操を見せる生徒(6月21日)
ジャカルタ日本人学校体育祭で息の合った組体操を見せる生徒(6月21日)
スナヤン・スクエアで開催されたジャカルタ祭りで、1.5トンの大人神輿を勇壮に担ぐ在留邦人ら(7月5日)
スナヤン・スクエアで開催されたジャカルタ祭りで、1.5トンの大人神輿を勇壮に担ぐ在留邦人ら(7月5日)

2003年の主な出来事

ホンダの人型ロボット「ASIMO(アシモ)」と握手するハムザ・ハズ副大統領(7月18日)
ホンダの人型ロボット「ASIMO(アシモ)」と握手するハムザ・ハズ副大統領(7月18日)
パプア州の分割に反対し、同州ティミカのデモで気勢を上げる老人(8月26日)
パプア州の分割に反対し、同州ティミカのデモで気勢を上げる老人(8月26日)
スラバヤと高知市のよさこい祭りに邦人も参加(9月14日)
スラバヤと高知市のよさこい祭りに邦人も参加(9月14日)

◇1月

 9日 全国で公共料金の値上げ反対デモ
 22日 第12回インドネシア支援国会合(CGI)閉幕、27億ドル財政支援
 25日 バリ島で第1回日本人会都市対抗テニス・サッカー大会開く

◇2月

 3日 国家警察本部で爆弾爆発
 9日 米イラク戦略に正義党が5万人デモ
 18日 国会、総選挙法を可決

◇3月

 3日 新型肺炎(SARS)で渡航自粛勧告
 邦人女性、自宅で刺殺体で発見される
 4日 日本大使館がタムリン新館で業務再開
 6日 国会、反テロ政令を法律に格上げ決議
 20日 イラク攻撃開始でイスラム団体がデモ

◇4月

 24日 国連ビルの裏手で爆弾爆発
 27日 スカルノハッタ空港ターミナルで爆弾

◇5月

 12日 バリ島爆弾テロ事件の初公判にアムロジ被告出廷
 19日 アチェ特別州に戒厳令、自由アチェ運動(GAM)の掃討作戦開始

◇6月

 14日 インドネシア人女性殺害で邦人逮捕
 24日 メガワティ大統領訪日、小泉首相会談

◇7月

 1日 日本ASEAN交流年2003インドネシア月間始まる
 4日 総選挙委、有権者登録数を1億4千万人と発表
 7日 国会、大統領選挙法を可決
 14日 国会構内で爆弾爆発

◇8月

 1日 改正前憲法に基づく最後の8月定例国民協議会が開幕
 5日 米系ホテルJWマリオットで爆弾テロで12人死亡、147人重軽傷
 15日 米当局、東南アジアの地下組織ジェマ・イスラミア(JI)軍事指導者ハンバリ容疑者をタイのアユタヤで逮捕

◇9月

 2日 JIの精神指導者アブ・バカル・バアシル被告に禁固4年の判決
 14日 スラバヤで初のよさこい祭り

◇10月

 7日 バリ島の第9回東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議で「ASEAN協和宣言2」を採択
 22日 ブッシュ米大統領がバリ島でメガワティ大統領と会談

◇11月

 24日 断食月終え、レバランの大型連休入り

◇12月

 8日 総選挙参加の24政党の政党番号発表
 11日 第13回CGIで34億ドル支援表明
 12日 ASEAN特別首脳会議(東京)で「東京宣言」採択
 19日 IMF、「経済改革パッケージ」最後の融資5億500万ドルを承認


この写真グラフは2003年12月31日のじゃかるた新聞に掲載されました




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