独立五十八周年を記念し、海洋民族インドネシアの精神を高めようと、世界遺産ボロブドゥール寺院の壁画に描かれた帆船を再現した木造船「サムドラ・ラクサ号」が十五日、北ジャカルタのアンチョール海岸を出発、インド洋上を西に針路を取り、アフリカ西海岸に向けた航海を続けている。ボロブドゥール寺院が建設された八世紀ごろ、インドネシア人の祖先たちが香料貿易で使用したとされる「シナモン・ルート」の足跡をたどるこの試みは、インドネシア人十人、欧米人五人が、約二万七千五百キロを約四カ月半かけて走破し、今年十二月末、ガーナの首都アクラに到着する予定だ。
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帆を広げインド洋上を航海するサムドラ・ラクサ号
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アンチョール・マリーナで十五日行われた出発記念式典には、メガワティ大統領夫妻、イ・グデ・アルディカ観光・文化担当国務相、リニ・スワンディ産業貿易相や海軍幹部約五十人が出席。イスラムや仏教の宗教指導者がお祈りを行うと、大統領夫妻も目を閉じ、航海の安全を願った。
その後、大統領は、リニ産業相とともにサムドラ・ラクサ号に乗船し、笑顔を見せながら船内を見学。最後に、出航を祝うサイレンを鳴らし、船と岸壁を結ぶ係留ロープを外すと、式典出席者や乗組員が互いに手を振り合う中、帆船は沖合へ旅立った。
アルディカ観光相は、同号が無事アクラに到着すれば、船を博物館に展示すると発表。また「伝統帆船を二、三隻作って観光客に解放することで、国内観光の魅力を高めたり、子供たちを乗せて海洋教育を行っていきたい」と今後の抱負を語った。
■英元海軍兵が計画
観光・文化担当事務所によると、この計画は、ボロブドゥール寺院一階の北側の壁画(6C)に描かれた帆船に関心を抱いた元英国海軍兵のフィリップ・ビール氏(四三)が立案した。
同氏は、インドネシア省庁やユネスコなどの全面協力を得た後、豪州人の考古学専門家ニック・バーニンハム氏(四九)に壁画を元にした帆船の設計を依頼。バリ島北岸沖の約百キロ先に浮かぶ東ジャワ州カングアン島民二十六人が、古来から伝わる伝統船の製法を用い、約二億五千万ルピア、約四カ月かけて帆船を完成させた。
メガワティ大統領が四つの候補の中から命名したサムドラ・ラクサ号は十六人乗りで、全長十八・二メートル、幅四・三メートル。エンジンなどの動力は使用しないため、最大船速は十ノットだが、全地球測位システム(GPS)など最新の衛星通信システムを装備し、万一の際に備えている。
■乗組希望者は800人
サムドラ・ラクサ号に搭乗するのは、約八百人の候補者から選ばれた将来のインドネシアを担う各方面の若手専門家十人と、英・米・豪などの海洋、考古学研究家五人。
船長は、長年の航海歴を誇るインドネシア海軍兵のイ・グスティ・プトゥ・ングラ・スダナ氏(三二)。インドネシア人乗組員の中には、仏教徒文化親善大使のシェイルヤナ・ジュアニタさん(二一)、環境教育専門家のニケン・マハラニさん(二六)の女性二人が参加している。
■喜望峰からアクラへ
十五日にジャカルタを出発したサムドラ・ラクサ号は、スンダ海峡を通過した後、インド洋を西北に抜け、九月十五日ごろにセイシェル諸島に寄港。その後は南西に進路を変更し、十月二十七日ごろにマダガスカル西海岸のマハジャンガに到着。十一月二十五日ごろにアフリカ大陸最南端の喜望峰を通過し、十二月三十日ごろに終着地のアクラに到着する。
各寄港地では、乗組員がインドネシアの伝統芸能を披露する予定で、インドネシアの観光アピールに一役買うことになっている。