メガワティ大統領の日本訪問に同行しているイ・グデ・アルディカ文化観光担当国務相は二十三日、扇千景・国土交通相と会談、インドネシアと日本の観光協力について話し合った。この会談で扇大臣は、両国の観光業界が強く懸念しているインドネシア政府の観光ビザ有料化について「インドネシアを訪れる日本人は年間六十万人を越える。これまで通り、ビザなしで渡航できなければ、六十万人の訪問は維持できなくなる。大臣にぜひともご尽力いただきたい」と伝え、有料ビザと期間短縮の新制度導入を見直すよう求めた。
これに対し、アルディカ文化観光担当国務相は「両国の観光が今後も容易に行われるよう望む」と答え、扇大臣の要望に理解を示した。両大臣は、日イ観光協力に関する共同発表に署名した。
共同発表によると、観光交流が、二国間の相互理解と親善を深め、ひいては社会と経済の発展に貢献することを理解し、今後、両国は、外国人旅行者の誘致キャンペーンや観光交流ミッションの相互派遣、観光産業の人材育成で緊密な協力をすることを確認。
その上で「両国の旅行者の負担の軽減、人的交流の促進、特に、インドネシアが現在検討中のビザ手続きが(旅行者の)障害にならないよう関係機関と協力を強化していく」と述べている。
アルディカ文化観光担当国務相は、扇大臣の要望に理解を表明し、共同発表の中で、観光交流に悪い影響を与えることのないよう、二国間で協力していくことを確認した。
メガワティ大統領が署名した新ビザ制度に関する大統領令の実施時期は、確定していない。インドネシア外務省領事局と法務人権省出入国管理総局によると、現在、施行法令、細則、取り扱い要領などを策定中。実施に際しては、十分な周知期間を置くとしている。
■坂本慶介・一等書記官(運輸・観光担当)の話
日本人がとっくの昔に忘れた高い自尊心をインドネシアの人々が持っていることは敬服に値する。しかし、今回のインドネシア政府の判断は、経済発展と国際交流を目指すインドネシア政府にとって大きな損失だろう。六万円のバリ島ツアーに申し込んだ人が、五千円程度のビザ料金を負担させられては、観光客は近隣のプーケット、ペナン、ランカウィなどに逃げてしまう。日本外務省は六月十二日、バリ島などへの渡航情報を最低レベルに引き下げ、夏場に向けてバリ島観光を盛り上げて行こうという機運が盛り上がったのに、冷や水をかける結果になりかねない。インドネシア文化観光省も同じ認識であり、インドネシア政府内で引き続き議論してもらえると思う。
イ・グデ・アルディカ・インドネシア文化観光担当国務相は二十三日、扇千景・国土交通相と会談し、日イ観光協力共同発表に署名した。アルディカ国務相は、日本外務省が、海外危険情報を引き下げたことに感謝し、日本人のバリ訪問を呼びかけたの対し、扇・国土交通相は小泉政権が打ち出した日本への観光客誘致キャンペーンへの協力を要請。二人とも観光交流の重要性で意見が一致した。だが、どちらの国民を招くにしても、ビザ問題を解決しないと、交流は深まらない。
主な会談内容は次の通り。
扇・国土交通相 訪日外国人旅行者の倍増に向け、今年を「訪日ツーリズム元年」と位置づけている。現在、日本から外国に旅行する人数は千六百万人を数える一方、外国から日本を訪れる人数は五百万人。これを、二〇一〇年には倍増すべく、「Yokoso!Japan」をキャッチフレーズに、ビジット・ジャパン・キャンペーンを開始した。
インドネシアについても、日本からは年間六十万人が訪れている一方、インドネシアから日本へは六万人が訪れている。この計画を実行する中で、これを十二万人に倍増したい。バリ島のテロ事件があったが、日本からの観光客も回復してきているようだ。9・11テロ事件、イラク戦争、SARSと、世界的に観光旅行が激減する時期で、倍増は難しかったが、今後に期待したい。
アルディカ文化観光担当国務相 インドネシア政府と国民に代わり、インドネシアへの渡航延期勧告の引き下げに感謝したい。これによって双方向の観光客の増加を願い、観光を通じた両国の関係発展を望む。われわれも「Yokoso!Japan」を応援したいと思っている。今後の協力関係の中で、われわれも「Yokoso!Indonesia」キャンペーンをやりたいと思う(笑)。本日は両国の観光協力に向けた文書に署名することができ、大変評価している。今後、民間部門の協力に向けた署名を行う際は、ジャカルタまたはバリで行い、その際には扇大臣にお越しいただくことを提案したい。
扇・国土交通相 インドネシア政府が検討しているビザ問題については努力してほしい。今まで通り日本人がビザなしで渡航できるようでなければ、年間六十万人の訪問を維持することは難しいであろう。ぜひ、アルディカ大臣にご尽力いただきたい。
アルディカ文化観光担当国務相 私も双方の国民による観光が今後も容易に行われるよう望む。
法務・人権省は十五日、四十九カ国に対し発行していた無料の観光ビザ(BVKS、短期無料訪問ビザ、有効期間六十日)制度を見直し、有料の到着ビザ(Visa On Arrival、有効期間三十日)を導入すると正式に発表した。無料の観光ビザを発行するのは相互主義に基づいた十一カ国と地域(タイ、マレーシア、ブルネイ、フィリピン、ペルー、シンガポール、チリ、香港、マカオ、モロッコ、トルコ)に限定、日本や欧米、豪州などの観光客は到着ビザを取得する。到着ビザの値段は四十−四十五米ドルの見込み。政府は今後、関係省庁や閣議で最終調整した後、二−三週間後をめどに大統領令を施行する方針。
法務・人権省によると、到着ビザ対象国の観光客は、入国審査前に設置されたカウンターで、バーコード付きの入国者カードとパスポートを提出。入管職員がその場でバーコードを読み取り、パスポートをスキャン、出入国などの情報を記録した上で、その場でビザを発給する。
入国管理に関する新大統領令(二〇〇三年第十八号)導入について、ユスリル・イフザ・マヘンドラ法務・人権相は「観光ビザを悪用し、ビザが切れるとシンガポールに出国し、またすぐ戻ってくる違法労働者が後を絶たない」と理由を説明。
また、同相は「例えば、インドネシア人が豪州を訪問する際、ビザ申請に約四十五ドル払うが、ビザが発給されないことも多く、その場合でもお金は返却されない」と述べ、相互主義の観点からも望ましくないとの意向を表明した。
到着ビザの対象国数については未定としたが、同相は「日本は到着ビザ対象国になるだろう」と語った。
到着ビザの発給は、ジャカルタやバリ、メダンなどの主要空港に限られる。新令施行前に、インドネシアの業者と旧令に沿って交わしたツアーや国際会議の契約については、六カ月間の猶予期間を設けるとした。
政府は、インドネシアを訪れる年間約五百万人の観光客から徴収するビザ収入を、約二億ドル(約二百四十億円)と試算。落ち込んだ観光業界を立て直すための新たなプロモーションや治安対策の財源にするとしている。
インドネシアの工業化が進む前の一九八三年、政府は、石油収入の減収に対処するため、観光収入を当て込んで一挙に二カ月の無料観光ビザ制度を導入。バリやジョクジャカルタに世界の観光客を集めて外貨獲得を図った政策は、バリ島爆弾テロ事件を経た世界的な観光不況の最中に見直されることになったが、観光客の上陸税で観光振興を狙うという新制度が観光客誘致にマイナスの影響を与えるとの懸念が出ている。
今回の決定について、日本の観光業界からは、「世界の流れに逆行する措置だ。観光客に見向きもされなくなる恐れがある」(旅行代理店)という声が上がる一方、「(治安対策がしっかり取られるなら)安全を買うと思えば決して高い額ではない」(日本の観光ジャーナリスト)といった賛否両論が出ている。
在留邦人からは「何人もになれば、まとまった金額。これからは気軽に家族を呼び寄せられなくなる」と心配する声も聞かれる。
空港で発行する観光ビザ(有効期間六十日)制度が八日、見直されることが明らかになった。これまで日本など四十八カ国だった対象国を、アセアンなどの十一カ国に削減、期限も三十日に短縮する。日米豪欧などの観光客は、今後、空港で三十ないし四十米ドルを払ってビザを取得し、滞在期間は三十日に限定される。実施は数週間先になる見込みだが、観光業界は「影響は大きい」として猛反発している。
メガワティ大統領が先月三十一日付けで署名した大統領令(二〇〇三年第十八号)によると、今後も無料の観光ビザ(BVKS、短期無料訪問ビザ)を発行するのは、タイ、マレーシア、ブルネイ、フィリピン、ペルー、シンガポール、チリ、香港、マカオ、モロッコ、トルコの十一カ国。
これまで空港で無料の観光ビザを取得し、実質ビザの取得が不要だった日本や米、豪、欧、韓国など三十七カ国は、事前にインドネシア大使館でビザを取得する必要はないが、入国審査前に設置される窓口で有料到着ビザ(Visa Saat kedatangan)を取得する。費用は三十−四十米ドルの見込みで、年間の入国回数の制限はない。
政府は、今週中にも閣議を開き、正式発表する見込みだが、新制度が実施されれば、短期無料訪問ビザ(十一カ国)、有料到着ビザ(三十七カ国)、その他の事前取得ビザの三つのカテゴリーに再編される。
法務人権省のアデ・ダクラン広報部長は「インドネシア人が日本のビザを取得するのに約五十ドルも払うのに、日本人が無料というのは公平ではない。平均滞在日数などの統計から見ても、観光への影響はないだろう」と語った。
一方、日系の旅行業界は、バリ島テロ事件やイラク戦争、肺炎とマイナス要因が立て続けに起こっていた後だけに、今回の突然の発表にショックを隠せない様子。
ジャカルタの日系旅行会社は「身近なリゾート地でビザが必要な国はない。日本の旅行者に与える心理的な影響は大きい。観光業が完全に冷え切っているこの時期に、なぜ、という思いでいっぱいだ」と語った。
また、バリ島ウブドなどには、観光ビザでの長期滞在者も多い。バリの旅行会社は「長期滞在の日本の芸術家や若者が、日本でバリの魅力を伝えてきた部分がある。そういう影響も懸念される」と語った。
インドネシアのビザ制度は、外貨獲得の柱だった原油の価格が下落傾向にあったのを受け、一九八三年に当時のスハルト大統領が、それまでの厳しい入管政策を一八〇度転換し、一挙に六十日有効という世界でもあまり例のない長期観光ビザを導入した。この観光客誘致政策が功を奏し、インドネシアの観光業界は急成長、バリ島は世界的なリゾート地として有名になった。
しかし、観光ビザで就労する外国人の増加や、先進国の厳しいビザ制度に比べインドネシアが不利になっているとの国民感情を背景に、法務省などで観光ビザの見直しを求める声が強まっていた。