ホーム
2004年1月12日 じゃかるた新聞掲載

スラウェシ街道(6)

山間に響く聖歌 テンテナ
 早朝、ポソ湖南岸の村ペンドロから、北岸の町テンテナへ渡る木造船に乗った。乗客は、チョコレートの実を売りに出掛ける農民、学生、主婦ら約二十人。全員がキリスト教徒だった。
ポソ湖北岸にあるサロパ滝。欧米人に人気のトレッキング・コース(ロレ・リンドゥ国立公園)のスタート地点でもある
ポソ湖北岸にあるサロパ滝。欧米人に人気のトレッキング・コース(ロレ・リンドゥ国立公園)のスタート地点でもある
幸せそうな新郎新婦を見守るテンテナの住人たち
幸せそうな新郎新婦を見守るテンテナの住人たち
 四方を囲む山々の麓(ふもと)に教会の屋根が見える。凪いだ湖面に白雲や青空、山々が映える。美しかった。
 出航から約二時間半後に木造船はテンテナの河口に入る。町の中心部にそびえるモスクの塔が視界に入った瞬間、自分の目を疑った。塔は黒焦げ、骨組みのみが無残に残っていた。この美しい湖畔の町にも、過去に宗教抗争が飛び火していたことに改めて気付かされた。
 国内三番目の面積を誇るポソ湖は、キリスト教徒とイスラム教徒の宗教抗争が勃発したポソ市南約六十キロの山間部にある。
 抗争後、両教徒の居住地は地区ごとに完全に分断された。イスラム教徒はポソ市内やトミニ湾沿いの海岸部に残り、ポソに住んでいたキリスト教徒の多くは、ポソ湖周辺や山間部に逃れた。
 抗争前、人口一万人程度だったテンテナは現在、避難民を含め三万人が居住する周辺部最大の町となった。

■心の奥底の恐怖

 その晩、テンテナで知り合ったメリーさん(三三)と、町の若者の結婚披露宴に出席した。大講堂に集まった約五百人の人々は盛装し、笑顔で祝福の言葉を掛け合っていた。皆幸せそうだった。
 披露宴からの帰り道、メリーさんは静かに、過去の体験を語り始めた。
 二〇〇二年六月、メリーさんは州都パルからテンテナへ向かう長距離バスに乗車した。
 バスはポソに入り、そこで最後部座席に座っていた男二人が降車した。不審に思った。バスはテンテナまでのノンストップバスだったからだ。
 その約十五分後、バスは突然、爆発した。
 男二人が置き去ったかばんの中に爆弾が詰まれていたのだ。後部座席の乗客五人は即死、前から二番目の席に座っていたメリーさんは、幸い一命を取り留めたものの、全治十日の傷を負った。右半身には今も傷跡が残る。
 「乗客は全員テンテナに住むキリスト教徒だった。犯人がイスラム教徒だったとは決め付けたくない。でも、なぜ、罪もない人が突然殺されなければならないの」
 メリーさんは目に涙を浮かべ、心の奥底に残る恐怖心を告白した。爆弾を受けてバスの床に倒れたとき、瀕死の女性が苦しげにつぶやいていた聖歌が耳に残って離れないと訴えた。
 披露宴の式場から、パイプオルガンの音が微かに聞こえた。その音は、どこか悲しげで、救いを求めるように山間に響いていた。

つづく


スラウェシ街道 第1回 | 第2回 | 第3回 | 第4回 | 第5回 | 第6回 | 第7回 | 第8回




ホーム | この一週間の紙面
 Copyright © 2004 PT. BINA KOMUNIKA ASIATAMA, BYSCH
 All Rights Reserved.