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2004年1月9日 じゃかるた新聞掲載

スラウェシ街道(5)

聖戦部隊が北上した道 タナトラジャ−ペンドロ
 タナトラジャ県ランテパオ市を出発し、スラウェシ縦断道(トランス・スラウェシ)を通って中部スラウェシ州の州都パルへ向かう長距離バスに乗った。
ポソ湖の前で、ペンドロの「ホテル・ムリア」の従業員。昨年10月以降、同ホテルに宿泊した外国人旅行客は10数人のみ
ポソ湖の前で、ペンドロの「ホテル・ムリア」の従業員。昨年10月以降、同ホテルに宿泊した外国人旅行客は10数人のみ
ポソ湖に面したペンドロの公営乗船場。ポソ紛争時、避難民の住居として使用された施設は、今も荒れ放題のままだった
ポソ湖に面したペンドロの公営乗船場。ポソ紛争時、避難民の住居として使用された施設は、今も荒れ放題のままだった
 ボネ湾から北上する縦断道のトミニ湾の分岐点に位置する町が、二〇〇〇年から〇一年に宗教抗争が激化したポソ。パルへ向かうには嫌でもポソを通過せざるを得ない。
 二〇〇一年十二月のマリノ和平合意で紛争は鎮静化に向かったが、昨年十月、ポソ、モロワリ両県で武装集団による襲撃事件が発生して以来、不穏分子の動きが再び活発化している。走行中の長距離バスが襲撃される事件も発生した。
 バスの乗客は、タナトラジャからパルに帰省する地元の人々がほとんどで、観光客は皆無だった。「商用」でパルへ向かうビジネスマンがただ一人。マカッサルの華人街で宝石商を営む張維盛さん(チャン・ウィースン、四六)。
 本気とも冗談とも付かぬ表情で、「紛争中にポソを通ったら、切断された首が自動車の屋根の上に並べられていたのを見てしまったよ」と耳打ちする。
 タナトラジャで見た水牛の首切りのシーンが鮮明に蘇り、自分の喉下に短刀を突き付けられる錯覚が頭をよぎった。

■兵士が厳しく検問

 タナトラジャの高地を下り、ボネ湾に面した平地を走った。一本道の両脇に民家、ヤシ園、田畑が点在するのみで、彼方の稜線まで続く原生林が左手に続く。
 山道に入る直前の村ウォトゥで若い国軍兵士二人が乗車した。迷彩服を着た二人は、ドラム缶のような巨大なザックを背負っていた。これから先はポソ方面への一本道が続く。彼らの行き先は聞かないでも分かった。
 午後六時、山岳地帯に入ったバスは最初の検問所の前で停車した。
 紛争当時、ジャワやマカッサルのイスラム過激派組織が「聖戦」の名の下に、この山道を北上してポソに大量流入したとされる。十月の事件以来、全国各地から増派された国軍・警察の治安部隊が山道の重点警備に当たり、各検問所では通行者に対する厳しい取り調べを行っていた。
 バスは各検問所の前で停車し、そのたびに乗客全員が身分証明書の提出を命じられた。時にはバスから降ろされることもあった。
 すでに日は暮れ、漆黒の森の不気味さと国軍兵士の威圧感がバス内の空気を覆い、張さんやほかの乗客の誰もが押し黙っていた。
 ふと、このバスが、首都ジャカルタからは決して見えない、この国の深く黒い闇の部分に向かって突っ走っていくように感じた。
 バスは州境を越え、中部スラウェシ州に入った。

つづく


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