スハルト元大統領の長女、シティ・ハルディヤンティ・ルクマナ(通称トゥトゥット)氏が、憂国職能党(PKBP、R・ハルトノ党首)の大統領候補に指名されたニュースは政界に波紋を投げた。トゥトゥット氏の立候補は、十二日開会の全国代表者会議まで不透明な部分があるが、メガワティ政権打倒を目指し、あえて政界に打って出たハルトノ党首に、その狙いについて尋ねた。ハルトノ氏はスハルト大統領の元側近で、陸軍参謀長、情報相、内相を歴任した守旧派を代表する人物。国民の間に広がる「スハルト時代を懐かしむ症候群」に便乗し、ゴルカル党幹部ら守旧派と接触していることを認めた。
−元軍人のあなたが、なぜ憂国職能党を結成したのか
ハルトノ党首 一九九八年五月、スハルト大統領が退陣した後(政権を支えてきた)ゴルカル(職能グループ)が新しい指導部に握られた。「ゴルカルの組織をわれわれの手に取り戻すべきだ」と、多くの友人たちが私に提案してきた。九八年当時、二十一州の知事は退役軍人で占められていた。私は陸軍参謀長だったので、彼らを引き付けるのは容易だったからだ。
スハルト氏に伝えたところ、スハルト氏は「ゴルカルを取り戻す必要はない。ゴルカルはやがて崩壊する」と答え、許しを得られず、「新しい政党をつくるべきだ」とのアドバイスを受けた。私はすぐには政党を作らず、まず非政府組織(NGO)を立ち上げた。その後、二年間、この組織のバックにスハルト氏がいるということで全国から支持者が参加し、彼らが政党にしてはどうかとの声が強まり、二〇〇二年十一月に党を旗揚げした。
−今回の選挙でもスハルト氏の支持を得ているのか
全面的な支持を得ている。この党はスハルト氏の命令で設立されたからだ。そのことを国民に説明し、支持を呼び掛けている。党の発展状況や幹部会議の内容についてスハルト氏に常に報告してきた。
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会見中も支持者から電話が殺到。党本部の部屋で会見に応じるハルトノ氏
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現在、スハルト氏は病気で、コミュニケーションが困難な状態のため、具体的な指示を一つ一つ出すことはできないが、年長者として(成功するよう)祈っていただいている。
しかし、私はいつもスハルト氏に「ここまでやりました」「今後、こうしようと思っています」と報告している。コメントをいただくのは難しいが、報告するのは、スハルト氏の命令を受けた者のモラルだと思っている。
−党綱領はどのようなものか
党の方針は明快だ。スハルト政権の柱だったパンチャシラ(国家五原則)を基にしたナショナリストの党だ。スハルト政権が最も国民に繁栄をもたらした一九八〇年代後半当時の状態を回復させ、経済、福祉、宗教、治安などあらゆる面で発展させることだ。スハルト氏は、国家のイデオロギーとしてパンチャシラに確信を持っていた。現在、パンチャシラを実践しようとするどころか、唱えることもしなくなった。
−どんな政策を訴えるのか
スハルト政権当時は三政党しかなく、政治は極めて安定していた。経済では、コメの自給自足を達成した。社会文化の面では、現在、女性があからさまに肌を露出させるなど性表現を問題視しなくなった。これは、東洋人として受け入れることはできない。
スハルト氏は地方へ行き、直接国民の声を聞いた。現在、プールを作ってほしいなどという国民の声どころか、道路が壊れても修復されず、農民が収穫物を輸送するのにもコストがかかり、収入が減少している。このようなことは以前は起こらなかった。
治安では、アチェ、パプア、ポソなどの地方紛争も解決していない。ジャカルタでも現在、夜間外出するのも恐いほどだが、以前は安全で、日本人も落ち着いて暮らせた思う。
−スハルト時代は良かったというわけか
SARS「スハルト時代郷愁症候群」(Sindorome Amat Rindu Suharto)という言葉が流行しているが、それは後から出てきたものだ。本当は、スハルト氏が退陣した当時から、すべての人々が泣き、スハルト氏の時代を恋しがったのだ。
−大統領候補にトゥトゥット氏を指名する理由は
トゥトゥット氏は国民に広く知られた著名人であり、善良で聡明な人物。これぞインドネシアの女性といった人だ。大統領選への出馬要請が相次いでいる。このことをスハルト氏に伝え、意見を聞いたが「よく考えるように」と言われた。近日中にスハルト氏と会い、最終的な結論が出るが、彼女は著名な人物であり、党や有権者の要望に応えると思う。
−大統領一家への国民の批判は強いが
トゥトゥット氏に向けられたKKN(汚職、癒着、縁故主義)批判については、人がそう言っているだけであり、法的に証明されなければならない。
−選挙戦はどう展開するのか
「できるだけ多く」の得票率、議席数を確保することが目標だ。他党との連合はまだ考えていない。党としての交渉はまだ行っていないが、個人の立場でゴルカル党の幹部とは内密に話をしている。
−スハルト氏の健康状態はどうか
スハルト氏はイスに座ってテレビを見たりして過ごしている。好きなテレビ番組は、ゴルフ、サッカーなどのスポーツだ。幽霊が出てくるミステリーの連続ドラマも好んで見ている。昨年、スハルト氏の誕生日パーティーにコメディアンが来たが、面白い場面で笑うことができなかった。テレビを見ていても感情を表すことは困難なようだ。脳梗塞で後頭部の脳神経に障害があるからだろう。