ホーム

枕の上の葉の三少年

 ジョクジャカルタの路上で生活する少年たちの日常をリアルに描き、国際的にも大きな反響を呼んだ「枕の上の葉」(ガリン・ヌグロホ監督、クリスティン・ハキム主演)が公開されてから二年が経った。安全ピンを唇に突き刺し、枕を取り合っていた映画の主人公を演じた三人の少年たちは、今、どうしているのか。列車の屋根の上で死んでいったカンチル、保険金詐欺事件に巻き込まれて暗殺されたヘルー、人違いで殺し屋に刺殺されたスグン。映画は三人の悲劇的な死で終わったが、彼らは映画よりたくましく、したたかに、枕の上の葉で描かれた現実を生き抜いていた。三人のその後を追った。(2000年11月16〜18、20日掲載)


ブロックMプラザの近くのワルンで語るヘルー
→写真を大きく見る

第1回 「兄貴分」の夢

犯罪と隣り合わせの今

「映画は昔のことだ。いつか結婚して子供が欲しい」

 ブロックMプラザに近い通りで、車を誘導し駐車料金を受け取っている若者がいた。ぼさぼさのアフロヘアにヘアバンド、銀の腕輪が光る腕にはライオンとどくろの入れ墨。「枕の上の葉」に登場した三少年の兄貴分、首を絞められて殺される少年を演じたヘルーだった。

 今は二十三歳。映画で見たのと同じ、暗さと訴えが入り混じったような目が印象的だ。映画の話をすると「もうずっと昔のことだ」。ジョクジャカルタで撮影したばかりのスルタン、ハメンクブウォノ十世の写真を見せると、英語で「ファック」と吐き出すような返事。指で写真をはじいた。

 ヘルーは五年ほど前からジャカルタに住み着いている。映画の後、クリスティン・ハキムさんの勧めで音楽学校へ行ったが、半年でやめた。今はブロックMプラザの目の前にある青年スポーツセンター敷地内にいくつかある東屋を宿代わりに、仲間と暮らしている。

 午前六時から午後三時半までセンター近辺の路上で駐車係(トゥカン・パルキル)の仕事をし、遅番の人と交替する。仕事の後はセンターでボクシングやサッカーなどをし、センターの東屋で寝る。テレビのある東屋もあった。

 路上で生活する子供たちは全国各地を転々とし、住みやすい場所を探す。ヘルーは「ジャカルタもジョクジャもどこに住んでも同じ。自分にとって危険ではない」と話すが、少年が大都市に定住するにはそれなりの勇気がいる。金を稼ぐのは容易だが、縄張りを統轄するボスの監視下に置かれ、犯罪すれすれの生活になる。

 「ジャカルタに移動したのは、映画人のすぐ近くにいられるからさ。もともと駐車係の自分が、映画で駐車係の役をするわけだから、演技といってもそのままだったよ。俺は映画のおかげで有名になった。新聞記者が来ても忙しいから相手にしないけど」と語った。ヘルーにとって映画はわずかだが明るい思い出になっているようだった。

 「お金がたくさんあったら何をしたいの」と聞くと「ビングン(困っちゃうな)」と少し考えて「仲間と一緒に住める家が欲しい」との答え。  「将来、何をしたいか」と尋ねると「結婚して、子供をつくって、家族を養っていけるだけ稼げたらいい。金持ちになる必要はないけど」と、予想外に普通で、だれもが望む幸福への夢を語ってくれた。

 古都を離れ、ネオンがまぶしいジャカルタに住み着いて、なお、ささやかな幸せを求めようとするヘルーの言葉に、胸を突かれた。


ホーム│ 枕の上の葉の三少年 第1回 第2回  第3回  第4回 

Copyright © 2000 PT. BINA KOMUNIKA ASIATAMA, BYSCH
All Rights Reserved.