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2002年12月27日 じゃかるた新聞掲載

連載「ジャカルタで作る世界の料理」より (2)

 種々の香辛料が創るうま味 アルニスさんのルンダン
 (インドネシア・パダン)
 「手狭な家ですけど、これがジャカルタです。インドネシアです。なんでも経験してください」
 友人のズルさん(三〇)の家に案内される途中、ズルさんは何度もそう言った。長屋がひしめく迷路のように入り組んだ細い路地をグルグル回っていくと、七月に結婚したばかりのズルさんとアルニスさん(二五)の新婚家庭があった。
アルニスさんのルンダン
アルニスさんの「ルンダン」
 二人は二〇〇〇年四月、パダンのブン・ハッタ大学日本語学科を卒業した。
 三畳二間ほどの間取りに、一畳もない台所。ベランダにあるカマル・マンディ(ふろ場)はプラスティックのたらいを使う。回りの家々の扉はどこも開けっ放しで、部屋の中は丸見え。
 三人でにぎやかに料理をしているのに気づいた近所の人たちが次々に様子をのぞきに来る。家の中に入ってきて何をしているのかとひとしきり聞く。裸足の子供たちが外から興味深気に様子をうかがっている。

■石臼でしっかりする

 プライバシーがうるさい今の東京のような都市では考えられない、たくさんの隣人の目のある暮らしだ。
 ルンダンはパダンの代表的料理の一つで、結婚式やレバランなどお祝いのときに欠かせないご馳走だ。牛肉をココナツミルクと多種のスパイスで水分がなくなるまで長時間煮込む。
 「母も私も料理をするのが大好き。私の趣味は料理です」と言うアルニスさんはルンダンを手際よく作ってくれた。
 最近はスパイスを既製品で済ます人が増えているというが、石臼を使ってしっかりすり、ココナツミルクも自分で絞る。その方が断然おいしいそうだ。

■材料はその日に買う

 lengkuasというショウガの一種は非常に固く、すりつぶすのが大変だ。クーラーのない台所でアルニスさんの額は汗びっしょりになる。
 都市ガスはないので、石油が燃料の小さなコンロで、焦げないように常に材料をかき混ぜながら煮込んでいく。
 大変時間と手間がかかる料理だ。アルニスさんの結婚式の時は近所の五人の女性が五本のへらで、十時間近くなべをかき混ぜ続けたそうだ。
 「ジャガ芋を入れた方が味がよくなるけど、市場に売ってなかったのでごめんなさい」とアルニスさん。
 レバランの時もルンダンを作るからと言われて訪ねたのだが、「今日は市場が休みで肉が買えず、作れませんでした」と謝られた。ズルさんの家には冷蔵庫がない。だから料理の材料は作るその日に買う。
仲の良い新婚のアルニスさんとズルさん
仲の良い新婚のアルニスさんとズルさん
 「パダンの女性は必ず料理ができなければいけません。料理のできない女性はもてません」と言って笑うアルニスさん。そして男性の方は成人したら、故郷を離れ、どこかで一旗あげてこないといけないそうだ。

■高原の町で食べたい

 ズルさんも、大学卒業後、ブキッティンギからなんのつてもないジャカルタに単身上京し、友達の家を泊まり歩きながら苦労して仕事を探した。
 妊娠中のアルニスさんを気付かって洗い物や掃除をズルさんがかいがいしく行う。アルニスさんの妊娠が分かった日、ズルさんの顔はほころびっぱなしだった。
 「インドネシア人は子供ができるのが大変うれしいです」とズルさん。男の子と女の子とどっちがいいかと聞くと「男です。一緒にサッカーをしたいです」。
 サッカーチームが作れる程、という楽観的な答えを予想して、「では何人欲しい?」と尋ねると、「一人か二人です。私は七人兄弟ですが、今は子供を育てるのはお金がかかるので大変です」。
 インドネシアでも若いカップルは日本と同様に子供を育てるのが難しくなり、少子化が進んでいくのだろうか。
 アルニスさんの作ってくれたルンダンは、舌の上でただ辛いだけではなく、じっくり煮込んだたくさんのスパイスが複雑に交じり合い、おいしさが、胃にじんわり染みわたる奥の深い味だ。ジャガ芋がなくても十分おいしい。
 「パダン料理はたいへん辛いです。食べるとたくさん汗をかきます。でも、ブキッティンギは高原なのでいつも涼しい風が吹いていて、食べたあと風が顔にあたって汗が乾く。それがとても気持ちがいいです」とアルニスさんは言う。
 オランダ時代からの避暑地ブキッティンギ高原で、涼しい風に吹かれながらルンダンを食べてみたい。
休日なので人がいっぱいでにぎやかだ
休日なので人がいっぱいでにぎやかだ
楽しそうに井戸端会議をする人たち
楽しそうに井戸端会議をする人たち


■材料(5人分)

 牛肉500g
 ショウガ(jahe)1片
 ショウガの1種(lengkuas/laos)2片
 ニンニク(bawang putih)7片
 紫小玉ネギ(bawang merah)20コ
 ウコンの葉(daun kunyit)1枚
 レモングラス(serai)1本
 コブミカンの葉(daun jeruk)3枚
 ローリエ(daun salam)3枚
 ココナツミルク(santan) 1.5リットル
 赤トウガラシのペースト(cabe giling)30g

■作り方

 (1)ココナツの胚乳の粉(kopra)2個分に水を加えて、よく混ぜ合わせ、ふきんで絞り、こす。これを3回繰り返し、ココナツミルク(santan)を1.5リットル分作る。
 (2)ショウガ、lengkuasを小さく切って石臼(batu giling)でペースト状にする。ニンニク、紫小玉ネギも石でつぶしながら、ペースト状にする。cabe gilingも加え、3cm角に切った牛肉とよく混ぜ合わせる。
 (3)なべにココナツミルクを入れ、ウコンの葉、ローリエ、石でたたいてつぶしたレモングラスを加え強火で熱し、沸騰したら、(2)を入れる。
 (4)30分ほど煮てココナツミルクがまったりとしてきたら、コブミカンの葉を入れ、塩で味を整える。弱火にし、焦げないようにかき混ぜながらじっくりと煮込む。
 (5)2時間ほどして、ココナツミルクの水分が減り、油が出た状態になると、パダン料理kalioとして食べられる。さらに1時間ほど煮込み、水分がほぼなくなり、ぱさっとした濃い褐色になったら出来上がり。

連載「ジャカルタで作る世界の料理」より
  レバラン祝う「餅」クトゥパット
  東ジャワ−名物の真っ黒なスープ
  マナド−バナナの葉に盛った粥
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