ヤシの若葉は何とも美しい色をしている。濃い黄緑に縁取られ、中はほんのり緑がかった薄い黄。この葉を編んだ中に米を入れて蒸したものが、クトゥパット(ketupat)だ。断食明けの大祭(レバラン)に必ず食べる一品で、レバランの象徴でもある。レバランを一週間後に控え、クトゥパット作りに挑戦してみた。
| クトゥパットとグレ(奥)
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市場で、ヤシの若葉を一束買う。七、八十本ほど束ねたものが、三千ルピア。
会社でクトゥパット作りを始めると、インドネシア人の同僚たちが、あっという間に編み上げていった。普通の四角形のほか、翼を広げた鳥、鶏、靴の形をしたもの、八角形のもの、丸い筒型、大きいもの、小さいもの…。
基本の四角形を練習した。パダン出身のズルヘフィさん(三○)の懇切丁寧な指導で、二時間ほどかかって何とかマスター。コンピューターのキーを打つ以外の手作業は久しぶりで、楽しい。物作りとは楽しいものだ。すっかり夢中になってしまった。
市場に、編み上がったものも売っているので、これを買い、家で米を詰めてクトゥパットを作るインドネシア人も多い。
普通の米を使い、味付けもしないのが一般的だが、パダンではもち米を使うなど、地方によって異なるようだ。長時間ゆでて固くなるので、ナイフで食べやすい大きさに切り、グレ(カレー)やルンダンをかけて食べる。
レバランの日は、家族でお祈りをした後、「過ちを許してください」とお互いにあいさつし、朝食にクトゥパットやグレなどのご馳走を食べる。一日目は近所や親せき宅をあいさつして回り、二日目は友人宅などを訪問して過ごす。
日本のお正月で、除夜の鐘を聞いて一年の罪障を滅し、初詣に行き、家族でお雑煮を食べるのと似ている。
レバランを祝う祭りは、昔は七日間続いた。その間、店は閉まり、来客で忙しいため、事前に作り置きできる保存食が必要だった。年中あるヤシの葉を使って、餅のような保存食として、クトゥパットを作り始めたようだ。
クトゥパットはインドネシアだけでなく、マレーシア、シンガポール、ブルネイなどにもある。イスラム教徒がレバランを祝う食事にするというのも同じだ。国境に関係なく広がるマレー・イスラム文化の一つと言えるかもしれない。
▼クトゥパットの編み方
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| (a)ヤシの葉の芯を取り、1枚の葉を2枚に分ける
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| (b)2枚の葉を両手に3回巻く。左手は太い端を上にして、右手は下にして、逆方向に巻く
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| (c)右手の1番左の葉を左手の葉に、上、下、上と重ねる
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| (d)重ねた部分の上部に、左手を持ち替える
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| (e)2本目は下、上、下、3本目は上、下、上に、右手の葉を左手の葉に通す
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| (f)右上に出ている長い葉のうち、後ろの葉を取り
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■チルボン風グレの材料(4−5人分)
牛肉 500g
ニンジン 1本
ジャガ芋 2コ
ココナツミルク 1コ分
ココナツの果肉 100g
植物油、塩 少々
うまみ調味料 少々
〈スパイスA〉
ニンニク(bawang putih) 6片
赤玉ネギ(bawang merah) 8片
ショウガ(jahe) 小さじ2
ショウガの一種(laos/laoskuas) 小さじ2
コリアンダー(ketumbar) 少々
コショウ(merica)少々
ナツメグ(pala) 小さじ1/2
ウコン(kunyit)小さじ2
タマリンド(asam)少々
〈スパイスB〉
レモングラス(sereh) 1本
ローリエ(salam) 2枚
■作り方
【クトゥパット】
(1)米を洗い、30分−1時間、水に浸けておく。
(2)ヤシの葉を編んだ中に米を半分ぐらい詰める。
(3)鍋に入れて、持ち手の長い葉を1つにまとめて縛り、クトゥパットの倍の高さぐらいまで水を入れる。
(4)なべにふたをして、中火で3−4時間蒸す。
(5)水から引き上げて釘にかけるなどして吊るし、冷めたら、さいの目状に切って、皿に盛る。
【グレ】
(1)スパイスAのニンニク、赤玉ネギ、ショウガ、laosを細かく刻み、ほかのスパイスと混ぜ合わせ、フライパンでからいりした後、すり鉢でするかフードプロセッサーにかける。
(2)牛肉、ニンジン、ジャガ芋は1.5センチ角に切る。
(3)ココナツの果肉は、おろし金などで小さくし、フライパンで色がつくまでからいりする。
(4)なべに油を引き、熱する。スパイスA、B、ココナツの果肉をいったものを加え、強めの火で、焦げ付かないよう注意してよくいためる。水を半カップほど加え、のばしながらいためる。
(5)牛肉を入れ、色がつくまでいためてから、ココナツミルクを加えて肉が柔らかくなるまで1時間くらい煮る。ニンジン、ジャガ芋、塩、うまみ調味料を加えて、野菜が柔らかくなるまで1時間ほど煮る。
(6)皿に盛り、刻んだ揚げニンニクとkucai(ニラの1種)を刻んで飾る。