世界貿易機関(WTO)に加盟した中国の国際社会進出に、東南アジア各国はどう対応しようとしているのか−を主なテーマに、タイ、ベトナム、シンガポールを訪問、五日にインドネシア入りした経団連の今井敬会長(新日本製鐵会長)ら七人の東南アジア・ミッションは六日、メガワティ大統領と会談した。中国、北朝鮮、韓国、インドの四カ国訪問を終えたばかりのメガワティ大統領は、経済再建を最優先課題として取り組む姿勢を強調し、「市場としての潜在力を考えた場合、社会が十分な能力を持たなくては、潜在力は潜在力で終わってしまう」と述べ、先進国の経済支援に頼るだけでは、経済自立は難しいとの哲学を披露した。
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記者会見に臨む(右から)今井会長、上島日イ経済委委員長、和田龍幸事務総長
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記者会見で今井会長は、四国訪問の印象として、(1)各国とも中国のWTO加盟を歓迎している(2)中国の進出は拒否できない(3)中国の台頭は東南アジア諸国にとって挑戦でありチャンスである−の三点を指摘した。
今井会長によると、チャンスとは中国が巨大な市場であること。挑戦とは、アジア各国が競争力の強化を迫られていること。そのために、日本が資本、技術、人材を提供する役割を担っており、そのためにこそ外資誘致の環境整備を急ぐ必要がある、として、外資誘致に積極的に取り組むよう要望した。
また、今井会長は、中国の台頭によって東アジアのパワー・バランスが崩れないようにするため、ASEANの結束を再び強化する必要がある。中でも最大の国であるインドネシアの政治安定が重要である−と述べた。
メガワティ大統領との会談で今井会長は、電力や石油化学の四大プロジェクトの問題を軌道に乗せ、ジャカルタ・ジャパンクラブ(JJC)の投資環境に関する提言に「インドネシア政府が素早い対応をしてくれた」とメガワティ政権の改革の進展を評価、投資誘致のインセンティブを充実するよう求めた。
これに対し、大統領は「今世紀の経済は以前のような形では立ち行かなくなっている。より高いレベルの経済に達した国が、自国の利益を最大限に拡大しようとするだけでは、地域の安定と繁栄は実現できない」と述べ、長期的な互恵精神に則った関係樹立を求めた。主要債権国会議を控え、日本側に柔軟姿勢を呼びかけたものとみられる。
インドネシアの経済情勢について、経団連日本インドネシア経済委員会委員長の上島重二・三井物産会長は「昨年九月のメガワティ大統領訪日時と比較し、国内の政治、社会安定や投資環境整備の点で、大きく改善されつつある」と述べた。
中国や韓国との競争に日本がどう対処していくのか、との質問に対し、「中国や韓国の製品に競争力があるのは事実だが、インドネシアも日本も、アジアおよび世界の中で協力の枠組みを広げ、国際競争力を強化していく姿勢が必要だ。日本とアジアが共生しようというのは、そうした考え方が背景にある」と述べた。
日本企業の中国進出に懸念するインドネシア記者の質問に答え、今井会長は、「中国への日本の投資が伸びているというが、ASEANへの投資はその三倍もある。日本の工場が中国に建設されてはいるが、過去四十年間の蓄積があるASEANに対しては、輸出基地としての拡大投資を行っている」と説明、日本企業にとってASEANは依然として重要な戦略拠点であることを強調した。
今井会長は今回のミッションを総括し「タイ、ベトナム、インドネシアは、各国の政府と日本の商工会議所が緊密な関係を築き、問題があった際の処理のスピードが早くなったのが、一番評価すべき点。シンガポールはIT(情報技術)集中化からの脱却を図り、構造改革を実施しようとしているが、まだ具体的な案は出ていない」と述べた。
経団連首脳とメガワティ大統領の会談要旨は次の通り。
今井会長 四大プロジェクト問題やJJC提言についての、素早いアクションに感謝している。
今回、訪問した国々は、中国の台頭は避けられない、挑戦だがチャンスでもあると受け止めている。中国進出による競争に勝つため、日本をはじめとする外国の資本、技術、人材の受け入れに積極的な姿勢を示している。潜在力のあるインドネシアも、外資に対するインセンティブ導入をお願いしたい。
メガワティ大統領 私の外遊はこれで三度目。今回の外遊で、今世紀の経済は、以前の形では立ち行かなくなっているとの印象を得た。より高いレベルの経済に達している国が、自国の利益を最大限に拡大しようとするだけでは駄目になっている。市場としての潜在力も重要だが、社会が充分な能力を持たないと、潜在力は潜在力で終わる。
前の二人の日本大使にも伝えたが、インドネシアの大きな潜在力が、十分評価されていない面もある。いま行うべきは、長期的互恵精神に基づく協力関係の構築である。日本はインドネシアの長年の友人。これまでの良好な日本とインドネシアの関係をより緊密化することを期待したい。私は実質二年半と、通常の半分の任期で指導者を引き受けた。二〇〇四年には、他国の支援を受けなくても良い状態になるようにしたい。