知的財産権の法整備を支援するため、インドネシア法務人権省知的財産総局に派遣されている国際協力事業団(JICA)専門家の菅野公則さん(四八)が、このほど、日本語に翻訳したインドネシア知的財産権法令集を完成させた。来年二月に帰国する菅野さんは、二年間の勤務中、著作権や特許に関するセミナーを開いたり、インドネシア語の漫画や教本、パンフレット作りに力を入れ、学校や企業、役所での啓蒙活動を行ってきた。しかし、知的財産権の理解は、まだ、確立していないのが実情。ホンダのオートバイ模倣事件などインドネシアでの知的財産権問題が増え始めており、日本語版の法律集は、日系企業にとって実務資料として重要だ。
日本語版法令集は、商標法、産業意匠法、特許法、著作権法、営業秘密法、集積回路配置設計法の六つのインドネシア語の法律の原典を日本語に翻訳したもので、百六十三ページ。巻末にインドネシアの知的財産権制度の流れや世界貿易機構(WTO)のTRIPs協定(自由貿易促進の立場から、知的財産権を確立する国際スタンダードを取り決めた協定)に対するインドネシアの対応を一覧表にして示してある。
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菅野さんが編集した日本語6法(中央)と資料
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インドネシアはオランダ時代からの法律を引き継いで一九五三年に特許法、一九六一年に商標法が制定されたが、機能していなかった。経済発展に合わせ、一九八七年に著作権法、一九九一年に新特許法、一九九二年に新商標法が施行された。
これらも十分には機能していなかったが、一九九五年にWTOのTRIPsが発効し、二〇〇〇年から知的財産権の法整備が義務付けられたため、この年に、産業意匠法、営業秘密法、半導体集積回路法を新たに施行する一方、二〇〇二年までに著作権法などをTRIPsに合わせて改正し、インドネシアもようやく知的財産権保護の法整備が整った。
しかし、知的財産権への意識は極めて低いのが実情で、偽ブランドや海賊版ソフトが街中にはんらんしている。
日本の特許庁が日本企業千五百社を対象に調査したところ、商標、意匠、特許の模倣をされた被害は、二〇〇一年だけで七百五十二社に上り、前年比で二倍に増えた。
模造品の発見点数を製造地区で見ると、このうち中国、韓国、台湾、香港の四地区で七四%を占める。
生産コストが高い北米や欧州は二%で少ないが、アジア太平洋地区が八八%を占めており、日本企業が絡む知的財産権紛争はアジアに集中している。
この中で、インドネシアの割合は、ASEANの中でタイに次いで多い(全体の二・八%)。また、模造品の流通の側面で見ると、インドネシアはシンガポールと並んで一番多い(全体の四・六%)。日本の企業が受けている被害を推計すると一兆円に達するといわれ、新たな外交問題にもなりつつある。
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知的財産権保護の重要性を説く菅野さん
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日本も高度成長期以来、欧米の製品を模倣するなど知的財産権の保護については、現在の発展途上国並みの時期があった。日本の特許や著作権、商標、意匠などがアジア諸国に侵害される時代となり、最近、ようやく、通常国会で「知的財産基本法」を成立させたばかり。
基本法は、特許などの創造物の知的財産を守り、大学や企業の役割を決めることで経済活性化を目指すと同時に、ノーベル賞を受賞した田中耕一さんのような発明者の処遇の確保を社会に求めている。
菅野さんは「新作ゲームソフトの海賊版が入手できるインドネシアは、知的所有権の意識がないに等しい状態だが、日本人も含めた外国人が海賊版を購入しているのも事実。日本企業も途上国で製品を売ることばかり考え、特許、意匠、商標などの権利取得を忘れ、紛争が起きても権利行使できないケースも増えている。日本人も著作権の理論武装する時期だ」と語っている。
この法令集を希望する人は、JICAジャカルタ事務所の安藤さんに連絡すれば、無料で入手できる。