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技術移転に新しい試み

 インドネシア人従業員の技術や管理の水準を高めるため、ジャカルタ郊外に工場を持つ荏原インドネシア(藤田あつし社長、従業員約四百人)が、十一日から、通産省の外郭団体である海外技術者研修協会(AOTS)の支援を得て、社員の技術研修会を開いている。藤沢市の工場から派遣されたベテラン技術者の、七日間にわたる講義や実務研修で、約二十人のインドネシア人スタッフが新たな知識と経験を身につけ、生産現場に戻る。インドネシア人の中堅技術者の再教育を通じ、技術移転のあり方をめぐって新しい発見があったと荏原製作所の技術者たちは語っている。(2000年12月15日掲載)


研修生と談笑する日本人スタッフ。(左から)彦久保・工場長、ネクタイ姿の山田さん、座っている榎本さん、その後ろに高橋さん
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砂型を作り、中心に中子を入れ、鋳型が完成。これに鉄を流し込むと一つの部品が出来上がる
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完成した多目的ポンプを点検する技術者たち
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藤沢工場生産技術室から出張してきた山田一雄さんから機械保全について学ぶインドネシア人技術者
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荏原インドネシア

「日本の下請けではなく
この国に根付く企業に」

海外技術者研修協会と協力
技術者育成のセミナー開く

 創業八十四年。世界のポンプ市場を支配する世界的な有力企業の荏原製作所は、一九八〇年にインドネシアに進出し、八三年から国内市場向けに農業用ポンプの生産を開始した。
 日本での生産コストが上昇したため、九五年から日本への輸出に力を入れ始めた。九七年の通貨危機で、インドネシア市場が極端に縮小。この結果、シンガポール、タイ、クウェートなど海外向けの生産に拍車がかかった。
 インドネシア工場では、農業用ポンプ、建築設備など多目的ポンプ、汚水処理、養殖などに使用する水中ポンプなど四種類を中心に生産されている。
 年間約一万三千台を生産。このうちインドネシア国内に約六千台、日本も含む海外に約七千台を輸出。大型空調設備や冷凍機の維持管理サービスも行っている。
 エバラのポンプは世界第二位の市場占有率を誇り、ポンプ・メーカーとしては世界の大手だが、日本では、現在、環境関連、半導体関連機器に重点が置かれ、ポンプは海外生産にシフトしつつある。全社的な「バイ・バック・プロジェクト」に沿い、インドネシア工場から、日本やアジアへの輸出促進を目指している。
 最近、中国製の安いポンプが東南アジア市場に進出、米国やデンマークの大手との国際競争も激化したこともあり、インドネシア工場の生産性と品質向上が緊急課題となった。
 農業用水、工場、ビル、養殖、治水など、生産から生活まで、あらゆる水処理に欠かせないポンプの性能と品質は、吐き出し能力の大きさと耐久性が勝負だ。
 ボゴールへ向かう高速道路をチブブル出口で降り、約十分ほどの所にある工場を訪れた。会議室に二十人のインドネシア人技術者が集まり、藤沢工場生産技術室から出張した山田一雄さんとインドネシア工場の榎本勉さんの講義を受けている。
 初日はAOTSの小野寺バスキ所長や彦久保任司・工場長が出席して開講式が行われ、ポンプを製造する機械類の保全についての講義が、午前と午後三時間ずつ、びっしり続いた。
   三日目、研修生はEJIP工業団地にある富士プレシシスの精密工作機械用具の工場を見学。このあと社内の現場に戻り、機械点検や故障発見の実技訓練を受けた。最終日の十九日には、グループによる発表、テスト、講評がある。
 インドネシア工場の生産管理部長の高橋俊幸さんの案内で、製造現場を見学した。直径三十センチほどの農業用ポンプが、鋳型の製作から溶鉄を流し込むまでの一貫生産で、次々と完成。こん包され、船積みを待っている。
 見学で分かったことは、ポンプの部品のほとんどが、かなりの手作業や職人的な技術を要する鋳造(ちゅうぞう)というプロセスを経て作られているということだった。
 木製や金属の鋳型から幾種類もの砂型を作り、その中心に「中子」(なかご)と呼ばれる砂の詰め物を固め、真っ赤に溶けた鉄や銅を流し込んで部品を一つ一つ鋳造する。この工程には高度な鋳造技術はむろん、精度の高い工作機械を操作する技術が求められる。
 今回の研修は、こうした工作機械の故障を事前に予測し、いかにして機械が壊れる前に異常を発見し、機械を保全するかがテーマとなった。
 工場長の彦久保さんは、講習の狙いについて「機械の振動、音、油の漏れなど、ちょっとした変化を察知し、経験と知識を動員して故障を未然に防ぐ。神の啓示とも言える第六感によって故障を予測する能力を身に付けてもらう」と説明してくれた。実際、こうした講習を繰り返すことで、工作機械の故障率が半減してきたという。
 日本への輸出促進の任を背負って一九九五年から生産管理を指揮してきた高橋さんは、インドネシア人スタッフへの技術移転について、「これまでのような上から押しつけるやり方でなく、技術の基礎を教え、目標を持たせ、自立させることが重要だと知った。学ぼうとしない彼らが悪いのではなく、われわれの教え方にも問題があったと反省する必要がある」と語る。
 そうした反省の上に立った一つの試みとして、藤田社長が陣頭指揮をとり、「日本組織改革日本マネジメントセンター」が開発した「F1」と呼ばれる社員研修も、最近、行っている。
 藤田社長以下、中堅社員十数人がクバヨランバルの宿舎に合宿した。二人一組の社員に矢印で道順を示した街の地図を持たせ、その指示通りに街を探検させる。現場で考え、体験した情報を別の社員に伝え、反省点を議論する│などの方法で、社員の理解力や判断力を高める集団的訓練だ。
 藤田社長によると「事実を正確に掘り起こすことで、理解と認識を深め、最も良い解決策を探る」という試みだ。
 藤田社長は「これまで、現地の工場は、しょせん、日本の下請け工場だとの考えが支配的だった。しかし、国際競争が激化したいま、この国に根付いた企業に育てない限り生きていけなくなった。日本で経験したことをインドネシア人に理解してもらい、技術の基礎からしっかり教え、理論を学び、自分で判断してもらうという新しい技術移転のあり方を、いま、模索しているところだ」と語っている。

海外技術者研修

 海外技術者研修協会(AOTS)が開発途上国の人材を対象に行う研修は@基盤人材育成プログラム(産業基盤整備のための国際貢献的な研修)A産業人材育成プログラム(産業発展に必要な技術と経営知識の研修)B専門人材育成プログラム(生産技術の実践的な技術移転)の三部門に分けられる。今回の研修は専門人材育成プログラムとして研修費用の五〇%(講師派遣費、通訳謝金、施設借上費、研修生手当など)を同協会が支援している。原資は政府開発援助(ODA)。

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