東京都から購入した中古の都バスが二十九日、ジャカルタで一斉に走り出した。最初の一週間は試験期間ということで、午前十時までの運行となったが、「新品同様」のバスが走る姿に、通勤中のジャカルタっ子もびっくり。初運転の緑のバスに、朝の通勤客とともに乗ってみた。
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ハイテク運転席で気持ち良さそうにハンドルを切る
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「何だ、この見慣れないバスの列は」−駅からどっと流れ出て来た群衆が、駅前の見慣れない光景に、一斉に歩みを緩めた。
改札を出たすぐ先の歩道の脇に、緑色の都営バス十二台が縦一列にきれいに並んでいる。
早朝六時の中央ジャカルタ・ジュアンダ駅。ジャカルタの表玄関・ガンビル駅の一つ北に位置するこの駅は、ボゴールやブカシなど、ジャカルタ近郊から通うビジネスマンや学生らを中心に、毎日五万人余りが利用する。
「さあさあ、乗った、乗った。グロゴル行きだよ」。
威勢のいいジャカルタ運輸公社の職員の呼び込みに、立ち止まってしげしげと眺める人、車内をのぞこうとする人、職員に質問する人と、さまざまだ。
 | ジュアンダ駅前に並ぶ12台のバス
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 | 大通りをスイスイ走行する
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 | 人々はバスに釘付け
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 | 特製運賃箱に切符を入れる乗客
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■初めてのサービス
しかし、取り巻きの数とは裏腹に、車内は一向に埋まらない。普段はメトロ・ミニで通勤するメリアさん(一九)も、「公共交通で、初めてのサービスらしいサービスじゃないかしら」と興味津々(しんしん)の様子。でも結局、「次回にするわ」と、尻込みした。新し過ぎて、不安なのか。
少し離れて、ジャカルタ運輸公社のダリウス・ジャナ社長やトリ・スポノ運輸省交通総局長、ラフマディ国鉄ジャボタベック支社長ら、関係者幹部らが心配そうに見守る。
「今日から一週間はプロモーション。客の数は問題じゃない」とジャナ社長。
タンブナン広報部長によると、ジュアンダ駅からグロゴル、スネン、ブロックMの三ルートの他に、プロガドゥン−ブロックM、ラワマングン−グロゴルの計五ルートで、バス三十四台を運行するという。
■「早稲田」の文字も
「ジュアンダ−グロゴル」という、正面上部の行き先表示も立派なものに仕上がった。車体の側面には、緑のペンキで塗りつぶされた「早稲田」や「葛西」といった文字もうっすら見える。
太った警官が様子見に入り、一人用の椅子に座ろうとしたが、お尻がはみ出て、座れずじまい。「インドネシア人には小さ過ぎる」とブツブツ。
七時近くなってようやく一人の女性が乗車した。このバスでラッシュ時の路線を初めて走る運転手のダルムンさんは、「ちょっと緊張してきた。でも三日間練習したし、ギアも楽だから、問題ない」と笑顔を見せた。
十五分ほどして、バスはグロゴルへ向け、ジュアンダ駅を出発した。
■ソファーが気に入った
予想に反し、乗客はたった一人。「(出社まで)時間もたっぷりあるし、散歩よ、散歩」と言って乗り込んだスサンさん(三二)は、ふかふかの青いシートが気に入ったようで、「家のソファーよりいいかも」と笑う。
隣を走るバスの乗客が、身を乗り出すようにしてこちらを見ている。指差したり、手を振る人もいる。物売りの少年が、扉や窓が開かないバスにいらいら。
ジュアンダ通りを抜け、ハシム・アスハリ通りに入ったところで、運輸公社の別の職員が乗り込んできた。
「ここまで何分かかった?」と運転手に尋ね、用紙に「十五分」と記入する。正確な運行表を作るためだという。
■運転手は慎重運転
運転手のダルムンさんが、あまりに慎重に運転するため、後ろに車の列ができ、時々、クラクションで追い立てられる。しかし、ダルムンさんは「日本製はエンジンが静かでいい」と、一向に気にしない様子。
このルートは初めてだったダルムンさんは、道を間違えそうになったが、乗客のスサンさんにも助けられ、無事、グロゴルにたどり着いた。スサンさんは「明日も乗ろうかしら」と満足そうだった。
ジュアンダ駅の高架下で、自動車部品を扱うアミアウさん(四〇)は「バスが駐車していると、部品を買いに来るお客が、車を止められない」と不満を言いながらも、「うちの部品を都バスの修理に使ってくれるよう、公社に言ってくれないかね」とにわかに訪れたビジネスチャンスに期待しているようだった。