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2002年8月28日 じゃかるた新聞掲載


都バス、ジャカルタで発進 50台、あすお目見え
 東京仕込みのワンマン式 吊革や降車ブザーもそのまま
 東京のダウンタウンで活躍していた緑色の都バス五十台が、二十九日から、ジャカルタの目抜き通りを貫く主要路線で、さっそうと走り出す。運賃箱を除けば、運転席も座席も日本語表示もすべて東京仕込みのスマートなワンマンバス。八年落ちの中古車だが、待ちに待った「新品同様」の市民の足として、ジャカルタっ子を大喜びさせそうだ。

整備された緑色のバスがずらっと並ぶ
整備された緑色のバスがずらっと並ぶ
 中古バス五十台は、ジャカルタ市内で運行するジャカルタ・バス運輸公社が、姉妹都市である東京都から購入。四月下旬、ジャカルタの港に荷揚げされた。現在、東ジャカルタ・チャワンの車庫で、運行開始に備えて最終整備中だ。
 正面の「PATAS AC(快速冷房車)」という文字とナンバープレートを除くと、懐かしい日本のバス。車内には青い布張りの座席が並び、優先座席、吊革(つりかわ)や降車を知らせるブザーもそのままだ。冷房も良く効き、ドアは自動。
 インドネシアでは珍しいワンマン式や自動ドアなど、複雑な操作技術を習得するため、同公社のギナンジャール技術部長が今年四月、東京で一週間の研修を受けた。同部長が帰国後、同社の運転手百十人を一カ月間かけて訓練した。
 だが、機器の表示は日本語で、インドネシア語のマニュアルはない。同部長らは「このスイッチは何のためだ」「ギアの下には何と書いてあるのか」と記者を質問責め。後続車に停止を知らせる「乗降中」ランプには「だれのため、何のために?」と最後まで、けげんそうな表情だった。
 インドネシア向けに改造した部分もある。運賃箱は、インドネシア製だ。運転手側の部分がガラス張りで、金額を確認したあと、レバーを引いて下に落とす仕組み。インドネシア語の行き先表示も作成中だ。
インドネシア特製の運賃箱
インドネシア特製の運賃箱
 ルスディ・イマワン運行部長は「来年には、さらに百五十台増やす予定だ。市民の足であるバスが清潔で快適になった。ジャカルタ市民にも親しまれるはず」と新生都営バスに期待を寄せる。
 モータリゼーションの波が訪れる前のジャカルタでは、二階建てバスあり、ミニバスありと、バスは通勤客の便利な乗り物だった。一九九七年の通貨危機以降、財政難と通貨暴落でバスの新車購入はおろか部品の補給もままならず、特別州が保有する半分以上のバスが車庫入り。未整備のおんぼろバスに頼っていた。
 ジャカルタ特別州は、この間、政府に財政支援を求める一方、東欧、中国、韓国製の安価なバスの購入を検討したが実現しなかった。そこへ東京都が、中古バスを市価の半額の一台約五十万円で引き渡すことに同意したため、都バスのジャカルタ・デビューが実現した。
 バスの運行路線は、プロガドゥン発ブロックM行き、ラワマングン発グロゴル行き、ジュアンダ発グロゴル行きの三つ。午前六時から午後八時まで運行する。運賃は、通常のエアコンバスより二百ルピア高い三千五百ルピア。


2002年8月30日 じゃかるた新聞掲載


1番都バス、発車オーライ 新し過ぎて、ためらいも
 「乗り心地はいいが…」 なぜか、乗客はたった1人
 東京都から購入した中古の都バスが二十九日、ジャカルタで一斉に走り出した。最初の一週間は試験期間ということで、午前十時までの運行となったが、「新品同様」のバスが走る姿に、通勤中のジャカルタっ子もびっくり。初運転の緑のバスに、朝の通勤客とともに乗ってみた。

ハイテク運転席で気持ち良さそうにハンドルを切る
ハイテク運転席で気持ち良さそうにハンドルを切る
 「何だ、この見慣れないバスの列は」−駅からどっと流れ出て来た群衆が、駅前の見慣れない光景に、一斉に歩みを緩めた。 
 改札を出たすぐ先の歩道の脇に、緑色の都営バス十二台が縦一列にきれいに並んでいる。
 早朝六時の中央ジャカルタ・ジュアンダ駅。ジャカルタの表玄関・ガンビル駅の一つ北に位置するこの駅は、ボゴールやブカシなど、ジャカルタ近郊から通うビジネスマンや学生らを中心に、毎日五万人余りが利用する。
 「さあさあ、乗った、乗った。グロゴル行きだよ」。
 威勢のいいジャカルタ運輸公社の職員の呼び込みに、立ち止まってしげしげと眺める人、車内をのぞこうとする人、職員に質問する人と、さまざまだ。
ジュアンダ駅前に並ぶ12台のバス
ジュアンダ駅前に並ぶ12台のバス
大通りをスイスイ走行する
大通りをスイスイ走行する
人々はバスに釘付け
人々はバスに釘付け
特製運賃箱に切符を入れる乗客
特製運賃箱に切符を入れる乗客

■初めてのサービス

 しかし、取り巻きの数とは裏腹に、車内は一向に埋まらない。普段はメトロ・ミニで通勤するメリアさん(一九)も、「公共交通で、初めてのサービスらしいサービスじゃないかしら」と興味津々(しんしん)の様子。でも結局、「次回にするわ」と、尻込みした。新し過ぎて、不安なのか。
 少し離れて、ジャカルタ運輸公社のダリウス・ジャナ社長やトリ・スポノ運輸省交通総局長、ラフマディ国鉄ジャボタベック支社長ら、関係者幹部らが心配そうに見守る。
 「今日から一週間はプロモーション。客の数は問題じゃない」とジャナ社長。
 タンブナン広報部長によると、ジュアンダ駅からグロゴル、スネン、ブロックMの三ルートの他に、プロガドゥン−ブロックM、ラワマングン−グロゴルの計五ルートで、バス三十四台を運行するという。

■「早稲田」の文字も

 「ジュアンダ−グロゴル」という、正面上部の行き先表示も立派なものに仕上がった。車体の側面には、緑のペンキで塗りつぶされた「早稲田」や「葛西」といった文字もうっすら見える。
 太った警官が様子見に入り、一人用の椅子に座ろうとしたが、お尻がはみ出て、座れずじまい。「インドネシア人には小さ過ぎる」とブツブツ。
 七時近くなってようやく一人の女性が乗車した。このバスでラッシュ時の路線を初めて走る運転手のダルムンさんは、「ちょっと緊張してきた。でも三日間練習したし、ギアも楽だから、問題ない」と笑顔を見せた。
 十五分ほどして、バスはグロゴルへ向け、ジュアンダ駅を出発した。

■ソファーが気に入った

 予想に反し、乗客はたった一人。「(出社まで)時間もたっぷりあるし、散歩よ、散歩」と言って乗り込んだスサンさん(三二)は、ふかふかの青いシートが気に入ったようで、「家のソファーよりいいかも」と笑う。
 隣を走るバスの乗客が、身を乗り出すようにしてこちらを見ている。指差したり、手を振る人もいる。物売りの少年が、扉や窓が開かないバスにいらいら。
 ジュアンダ通りを抜け、ハシム・アスハリ通りに入ったところで、運輸公社の別の職員が乗り込んできた。
 「ここまで何分かかった?」と運転手に尋ね、用紙に「十五分」と記入する。正確な運行表を作るためだという。

■運転手は慎重運転

 運転手のダルムンさんが、あまりに慎重に運転するため、後ろに車の列ができ、時々、クラクションで追い立てられる。しかし、ダルムンさんは「日本製はエンジンが静かでいい」と、一向に気にしない様子。
 このルートは初めてだったダルムンさんは、道を間違えそうになったが、乗客のスサンさんにも助けられ、無事、グロゴルにたどり着いた。スサンさんは「明日も乗ろうかしら」と満足そうだった。
 ジュアンダ駅の高架下で、自動車部品を扱うアミアウさん(四〇)は「バスが駐車していると、部品を買いに来るお客が、車を止められない」と不満を言いながらも、「うちの部品を都バスの修理に使ってくれるよう、公社に言ってくれないかね」とにわかに訪れたビジネスチャンスに期待しているようだった。




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