華人の文化活動を弾圧したスハルト政権崩壊から五年以上が経過し、インドネシア文化の一つとして定着した華人のメディアが多様化している。急成長する中国本土の情報を伝える中国語の新聞が販売部数を伸ばす一方、インドネシア語でタブー視されてきた華人問題を正面から論じる専門誌も発刊された。「国際日報」と月刊誌「シネルギー・インドネシア」の二人の編集長との対話から、国際的な視野に立った華人の成長に期待をかけ、インドネシアにはなかった硬派メディアを成功させようとする熱意が伝わってきた。
国際日報(本社・中央ジャカルタ・プチェノンガン)は二〇〇一年四月、ジャワ・ポス・グループの華字紙として創刊。約三年間で発行部数三万部を誇る国内最大の華字紙に成長した。衛星を通じて送信し、ジャカルタのほか、メダン、スラバヤ、ポンティアナックと華人の多い四都市で印刷する。
インドネシア華人である李卓輝(リー・チョーフイ)編集長は「この五年間で多数の華字紙が発刊されたが、残っているのは約七紙。三十二年間で、華人の中国語能力は極度に低下したことを改めて痛感した」と話す。
■読める華人は100万人
同編集長の推計によると、全国の華人を約一千万人とした場合、このうち三割は、会話はできるが読み書きはできず、読解能力があるのは約一割の百万人ほどだという。
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「中国語の使用者は増加する」と楽観する李編集長
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「しかし、この五年間で中国語の語学学校は大繁盛するなど、アジアの国際言語として、中国語を理解する若者は増加している」と語り、中国語の普及とともに新聞の成長は間違いないと楽観する。
編集部には中国語が飛び交い、机の上には中国語の手紙が山積みされている。インドネシア大学などで中国語を習得し、中国語で記事を書くプリブミ(土着のインドネシア人)の記者も四人ほどいるという。
■中国本土の最新情報も
李編集長は「中国を脅威と考えるのは間違っている。インドネシアの華人に中国の情報を早く的確に伝えることができれば、両国の関係も強化されていくはずだ」と強調する。
中国紙との提携も多彩だ。中国本土の最新情報を伝えるため、人民日報、文匯報の海外版を別冊として折り込む。インドネシアの国内ニュースは、イスラム系政党幹部と華人実業家の会合など、インドネシア語の新聞には登場しない情報が満載されている。
■中小企業育成が重要
華人が標的となった一九九八年の五月暴動から五年。「われわれは生まれも育ちもインドネシア。時代の波によって華人は標的となってきた。いつの日か再び襲われるかもしれないが、これは政治・社会的問題であり、回避する努力をすることが重要だ」。
李編集長は「スハルト政権の最大の誤りは、特定の華人実業家を優遇し、同時に華人は金持ちとのイメージを植え付け、経済格差から生じる怒りの矛先を華人に向けさせたことだ」と述べ、華人だけでなくプリブミの中小企業の育成が緊急課題だと指摘した。
月刊誌「シネルギー・インドネシア」 | −差別のタブーに挑戦 |
「プリブミの華人に対する差別意識を変えるには、インドネシア語で華人問題を伝えなければならない。華人だけで議論しても自己満足に終始するだけだ」
タン・スウィ・リン編集長は昨年三月、月刊誌「シネルギー・インドネシア」を創刊。これまで一般誌ではタブー視され、めったに取り上げられることのなかった華人問題をさまざまな角度から論じる。
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「華人問題をオープンに議論すべき」と話すタン編集長
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華人差別の象徴でもある国籍証明書(SBKRI)をめぐる問題、近代史の検証、華人評論家による政局分析、華人に関するイベントや本の紹介などを取り上げている。
「スハルト政権下では、少数派を多数派に同化させようとした。華人は他者ではなく、同じインドネシア人なのだという見方を広めなければならない」
■まだ残る華人監視
スハルト政権崩壊後、多数の華字紙が発刊されたが、タン編集長は「インドネシアの華人問題を議論するメディアはなかった。華人の差別問題をタブー視する傾向は変わっていない」と指摘する。
タン編集長は「以前のような強大な権力ではなくなったが、現在も国軍戦略情報庁や国家情報庁が華人の監視を続けている。差別的な法令が六十以上も残っているからだ」と述べ、華人監視用の指針が書かれた三冊の本を見せてくれた。
■憲法改悪に抵抗
華人問題研究所所長でもあるタン編集長は、政府の華人政策にも積極的に提言を行っている。昨年八月の憲法改正審議では、正副大統領の資格として「土着のインドネシア人」という表現が盛り込まれたことに抗議、国民協議会議員と協議し、削除することに成功。法的には華人でも大統領になれることになった。
シネルギー誌では、こうした問題の特集記事を組み、多角的に検証する。
「この後、政府が策定した大統領選挙法案には、改正前の表現が再び使われていた。華人を同列に扱いたくないという政府高官の本心が見て取れる。華人問題は時間をかけ、オープンに話し合っていくことが重要だ」と強調した。