2002年10月21日(月) 第1184号 主要ニュース全文
バアシル氏を逮捕 一連の国内テロ容疑
 国際組織の解明急ぐ 国家警察
治安当局が否定していた イスラム共同体とは何か
 「イスラム国家」狙う?
対テロ政令を施行 バリ島事件も対象
首都で爆弾テロの危険 豪政府が警告
インドネシア女性 実行犯容疑で聴取 捜査当局
「高い代償も、効果あり」 米国防副長官
由香さんの死亡も確認
バアシル氏の資金 アルカイダ提供? 英紙が報道
バリの失業者15万人に ヤコブ労相
テロの影響を楽観視 テオ投資調整庁長官
内野俊彦の為替・経済ウィークリー
 ルピア安定の最低条件 バリ事件を闇に葬るな
政府がテロ退治を決断 バリ島爆弾事件で一変
 イスラムの抵抗に配慮 バアシル氏逮捕で迷う
揺れるイスラム勢力 <らしんばん>
 コラムニスト・高取茂
フラッシュ・ニュース


バアシル氏を逮捕 一連の国内テロ容疑
 国際組織の解明急ぐ 国家警察

 国家警察は十九日、アルカイダとの関係が指摘される東南アジアのイスラム地下組織「イスラム共同体」(ジェマ・イスラミア=JI)の精神的指導者とされるアブ・バカル・バアシル氏(六四)を、入院先の中部ジャワ州ソロ市内の病院で逮捕した。二〇〇〇年クリスマスイブの教会爆破事件やメガワティ大統領暗殺計画などに関与した疑い。十二日に発生したバリ島爆弾テロ事件との関係は不明のまま、米政府などの圧力に押し切られ、摘発に踏み切った。警察は、同氏の体調が回復次第、二十一日にも身柄をジャカルタに移し、国内のテロ容疑と、アジアの過激派組織の実態などについて本格的な尋問に入る。
 バアシル氏は、国家警察から出頭要請を受けていたが、十八日、過労で倒れ入院した。国家警察は十九日、アルヤント・スタディ刑事局長らを派遣し、逮捕状を執行した。
 今年六月にボゴール近郊で治安当局に逮捕され、米国に引き渡されたアルカイダの東南アジア地区幹部オマル・アルファルク容疑者(クウェート人)の供述に基づくとしている。
 治安当局は今月、米国にアルヤント刑事局長ら捜査班を派遣、アルファルク容疑者を直接尋問した。この際、同容疑者が、一九九九年四月のイスティクラル寺院爆破事件や二〇〇〇年クリスマスイブのキリスト教会爆破事件、メガワティ大統領の暗殺計画にバアシル氏が関与したと供述したという。
 また、今年九月に、米攻撃テロ一周年に合わせ、シンガポール、マレーシアなど東南アジア各国の米国大使館を爆破する計画を立てていたとしており、バアシル氏が同地域のテロネットワーク「イスラム共同体」の黒幕だったとの疑いが持ち上がっている。
 アルヤント刑事局長は二十日、「ソロ警察の医師団がバアシル氏の病状を確認している。ジャカルタへ身柄を移すか、ソロで取り調べを行うかは、医師団の診断結果次第だ」と述べた。
 バリ島爆弾テロ事件との関連に関しては、「現時点で関連はない。アルファルク容疑者の証言を基に捜査を行う方針だ」と語った。
 政府はこれまで、バアシル氏らの強制捜査に踏み切れば、一般市民にも潜在的に存在する反米感情をあおり、「米国の言いなりになって、イスラムを弾圧したとみなされることを恐れていた」(国立イスラム学院のアジュマルディ・ヒダヤットゥラ学長)とみられる。政権内部でも、イスラム政治家の重鎮ハムザ・ハズ大統領が強硬に反対してきた。
 しかし、多数の死傷者を出したバリ島爆弾テロ事件で、テロ取り締まりに対する毅然とした態度をアピールしなければ、国際社会での信用は失墜し、経済再建にも大きな影響を与えるだけに、過激派イスラムへの強制捜査を迫られた。
 バアシル氏の逮捕により、急進派勢力の反発が予想され、首都ジャカルタやスラバヤなどで治安の悪化を懸念する声も出ている。

■バアシル氏 

 一九三八年八月十七日 東ジャワ州ジョンバンに生まれる。
 一九七二年三月 中部ジャワ州ソロにプサントレン(イスラム寄宿学校)「アル・ムクミン」を設立。一九七八年、イスラム国家建設を唱え、四年間投獄。一九八三年、スハルト政権のイスラム弾圧の柱だったパンチャシラ(国家五原則)違反容疑でアブドゥラー・スンカル氏ともに起訴。
 一九八五年二月、アブドゥラー・スンカル氏と共にマレーシアへ。この頃から、ジェマ・イスラミアの活動を開始。一九八五年から九九年にかけ、アブドゥラー・スンカル氏と共にマレーシアとシンガポールで布教活動。イスラム過激派と交流を深め、イスラム共同体の基礎を築いたとされる。
 一九九九年、マレーシアから民主化時代を迎えたインドネシアに帰国。ソロで再びイスラム寄宿学校を運営。二〇〇〇年に急進派組織「ムジャヒディン評議会」の議長に就任。
 シンガポールやマレーシアやなどで摘発されたJIのメンバーの供述などから同組織の黒幕とされ、周辺諸国はこれまで強制捜査や身柄引き渡しを求めてきたが、インドネシア側はイスラム勢力の反発を懸念し、「証拠不十分」としてあいまいな対応に終始してきた。

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治安当局が否定していた イスラム共同体とは何か
 「イスラム国家」狙う?

 インドネシア人の過激派イスラムの小さなグループが一九九〇年代に入り、南部タイから豪州にいたる東南アジア地域にネットワークを持つ組織に発展した。
 アルカイダは、JIの訓練と資金面で支援してきた。ソロの精神的指導者であるアブ・バカル・バアシル氏も指導者の一人。
 作戦司令官であるリドゥアン・イサムディン(別名・ハンバリ)はインドネシア国内に潜伏。JIとアルカイダのメンバーをともに抱え、シュラと呼ばれる協議会活動に参加。アフガンの反ソ・ゲリラ闘争にも参加した経験を基に、東南アジアにアルカイダのネットワークを形成した。
 JIには四つのグループが存在する。
 マンティキ1(M1)は、マレーシアをベースに南タイ、シンガポールを担当。
 マンティキ2(M2)はソロをベースに中部ジャワ、スラウェシとカリマンタンを除く全インドネシアを担当。
 マンティキ3(M3)フィリピンのマギンダナオをベースに、ブルネイ、サラワク、サバ、カリマンタン、スラウェシを担当。
 マンティキ4(M4)イリアンジャヤと西パプア、豪州を担当。
 一方、アルカイダのオサマ・ビンラディンは、一九九八年、義理の弟のモハマド・ジャマル・カリファをフィリピンに派遣、初めて東南アジアのイスラムとの連携を持つ。
 次にアルカイダ軍事部門の長であるカリド・シェイク・モハマドと、世界貿易センタービル爆破を企画した、いとこのラムジ・アフムド・ユセフを東南アジアへ派遣。
 一九九四年、米大統領暗殺の予行演習として、フィリピン航空機を爆破したが、九五年、指導者が逮捕され、活動が停滞。各地域の現地グループに頼らざるを得なくなる。
 こうしてアルカイダとJIは、効果的に合流し、指導者、訓練、作戦、資金を共有するようになる。
 一九九〇年代後半に入り、JIはいくつかのテロを実行。マルク紛争でも重要な役割を果たす。
 アルカイダとマレーシアのJIが組んでテロを起こし、九・一一事件の容疑者であるザカリアス・モウサウイに資金を提供。
 二〇〇一年十二月、JIは、米国、英国、豪州、イスラエル大使館を爆破しようと計画したが、シンガポールが摘発。
 東南アジア地区のアルカイダ・JIグループの四分の一の勢力は逮捕または殲滅されたが、インドネシア国内の組織だけが、まだ手つかずになっているとされる。

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対テロ政令を施行 バリ島事件も対象

 バリ島爆弾テロを受け、米国など国際社会の圧力に応える形で、政府は十八日夜、テロ対策を強化するため、治安当局に強権発動を認める対テロ緊急政令を施行した。緊急政令では、テロを「重要施設や公共施設を破壊し大量殺人を犯す、異常で人道に背く犯罪」と定義した。
 治安当局は、テロに関与した疑いのある者に対し、諜報機関の情報に基づき、逮捕状なしに七日間の予防拘束が可能。容疑者に特定されれば、取り調べのため、最高で半年間の拘置が認められる。
 また、一年間の電話の 盗聴などの諜報活動が認められ、裁判では証拠として使われる。最高刑は死刑。
 原案では、国家警察や国軍、国家情報庁などの要員で構成される対テロ特別捜査チームを発足する予定だった。しかし、閣内からも反対意見が出たため、最終的に見送られた。
 この政令をバリ島爆弾テロ事件にさかのぼって適用するための、別の政令も同時に公布発効された。
 政府は、今週中にも、テロ対策法を国会に提出する予定だが、バリ島爆弾テロ事件の発生を受け、国会承認なしで発令が可能な緊急政令を公布した。
 世論も、緊急事態だけに緊急政令に表立って反対する声は少ないが、人権侵害につながるとの懸念もある。

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首都で爆弾テロの危険 豪政府が警告

 豪政府は十八日、ジャカルタでも西洋人を標的にした爆弾テロの危険性があるとして、十二日のバリ島爆弾テロ事件の後に出していた渡航自粛勧告に続き、インドネシア渡航に関する危険度をさらに一段階引き上げた。
 渡航の自粛と、安全に留意するすべての豪州人は出国を検討するよう勧告したほか、ジャカルタ、バリクパパン、スラバヤ、ジョクジャカルタの四都市で、特に安全に注意するよう呼びかけた。
 都市郊外の「ショッピングセンターや繁華街など人の集まる地域は避ける」よう勧告、ジャカルタで避けるべき地域として、コタ、ハヤムウルック通り、タマン・アングレック、パサール・バル、パサール・スネンを挙げた。
 米、英両政府も自国人に対し渡航自粛や退避の検討を勧告している。
 日本外務省は爆弾テロ事件後、バリ島に関し、「十分注意してください」から「渡航の是非を検討してください」に危険度を引き上げている。

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インドネシア女性 実行犯容疑で聴取 捜査当局

 バリ島爆弾テロ事件を捜査している国家警察のサレ・サアフ報道局長は、十九日までに六十七人を参考人聴取し、このうち、大型爆弾が仕掛けられた車を運転していたとみられるインドネシア人の女性が、実行犯の一人である可能性があるとみて、集中的に取り調べていることを明らかにした。
 現場付近にいた目撃者数人の証言によると、この女性は、オープンエア・ディスコ「サリ・クラブ」の前に、爆弾が爆発した車を駐車した。この後、車から降り、レギャン通りを走行中の別の車に乗り込んだ。

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「高い代償も、効果あり」 米国防副長官

 ウォルフォビッツ米国防副長官は十八日、タイム誌のインタビューに答え、バリ島爆弾テロ事件は「(インドネシア政府を)目覚めさせる合図になった」との見方を示した。事件は「高い代償となったが、それだけの効果は上げているようだ」と述べ、事件後のインドネシア政府の反テロに向けた取り組みを評価した。
 ウォルフォビッツ副長官は一九八六−八九年、駐インドネシア米大使を務めた経験などから、「事件は、悪人がいかに自分たちの国を悪用するかということについて、インドネシア国民に衝撃と恐怖を与えた。イスラム過激派の犯行だと明らかになれば、最も怒るのはインドネシア国内のイスラム教徒だろう」と語った。
 インドネシアのテロ対策の遅れを、長期間、独裁体制下にあったため、信仰や信条への弾圧に過敏であるためとしてインドネシア政府を擁護、「われわれが、(捜査について)安易に評価を下すことは避けるべきだ」と述べた。

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由香さんの死亡も確認

 バリ島爆弾テロ事件の犠牲者の遺体が収容されている州立サンラ病院は二十日、行方不明となっていた横浜市の鈴木由香さん(三三)の死亡が確認されたと明らかにした。二十一日にも正式発表される見通し。
 由香さんの夫、鈴木康介さん(三四)の死亡はすでに確認されており、爆弾テロに巻き込まれた日本人の死亡者は二人となった。
 鈴木さん夫妻は十一日から、バリ島観光に訪れ、現場近くのパドマ・ホテルに宿泊していたが、事件が発生した十二日の夜から連絡が途絶えていた。
 サンラ病院によると、事件の死亡者百八十五人のうち、二十日夜までに四十九人の身元を確認した。

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バアシル氏の資金 アルカイダ提供? 英紙が報道

 二十日付英紙サンデー・タイムズは、インドネシア国内でこれまでに起きた爆弾事件などに関与した疑いで十九日に逮捕されたアブ・バカル・バアシル氏(六四)が、アルカイダ指導者のオサマ・ビンラディン氏の口座から七万四千ドル(約九百三十万円)を引き出していたと報じた。米中央情報局(CIA)の機密文書に基づく情報という。
 報道によると、バアシル氏は、ビンラディン氏の仮名の一つである「シェフ・アブ・アブドラ・エミラティ」名義の口座から資金を引き出し、インドネシア国軍から、爆発物三トンを入手する資金に充てたという。

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バリの失業者15万人に ヤコブ労相

 ヤコブ・ヌワウェア労働移住相はこのほど、現在バリで観光業に従事する約三十万人のうち、バリ島爆弾テロ事件の影響を受け、観光業の落ち込みが激しくなった場合、十−十五万人の失業者が発生するとの見通しを明らかにした。
 同相は、大量の失業者発生に備え、労働省は現在、ヤシ農園の拡大やコメ栽培における生産性の上昇などの雇用創出政策について協議していると説明、事件の影響を最小限に食い止めるとの意向を強調した。

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テロの影響を楽観視 テオ投資調整庁長官

 テオ・トゥミオン投資調整庁長官はこのほど、バリ島爆弾テロ事件が投資に与える影響について「投資(環境の改善)に対する気付け薬になる」との見方を示した。
 テオ長官は「不透明な法順守、治安、不明瞭な税制、失業問題など、時限爆弾がたくさんある。事件前から投資環境は十分崩壊した状態だった」と述べ、事件を契機に投資環境改善に本格的に取り組むべきだと主張。今回の事件自体が投資に与える影響は、軽微に留まるとの見解を示した。

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内野俊彦の為替・経済ウィークリー
 ルピア安定の最低条件 バリ事件を闇に葬るな

 悲しいニュースがマーケットの流れを変えようとしている。バリ島爆弾テロの影響は、週明け十四日のジャカルタ市場を直撃、為替、株価ともに暴落する「インドネシア売り」の様相を呈した。
 中銀はテロによるルピア安を押え込むべくルピア防衛を表明、断続的な市場介入を実施したが、先行き不透明感から十五日には株価が四年ぶりの安値まで下落、為替も一ドル=九四〇〇ルピアまでルピア安となった。
 しかし、市場が落ち着きを取り戻すにつれ、値頃感からのルピア買い戻しも出始め、株価の急回復にも支えられながら、週央からは九二〇〇台前半での様子見となった。
 とりあえずマーケットでは、ニュースとしてのテロ事件をあらかた消化した感が強い。バリ島を中心とした観光業界全体の落ち込み、個人消費マインドの低下、海外からの投資の更なる減少など、インドネシア経済へのマイナス効果を払拭するには、市場介入という手段を使っても、中銀としてはこれまで以上に「ルピア高定着による金融緩和」に固執したいところである。
 しかしながら、今年のルピア高の根底には「政情・社会の安定」があったはず。世界最大のイスラム人口を抱えるインドネシアでのテロ対策という難題に直面したメガワティ政権だが、対イラク攻撃が見え隠れする中、今後の対応次第ではテロの再発リスクも含め、政治・社会情勢の再流動化の危険性もある。
 やはり徹底的な調査により、国内のテロ組織の有無を全国民に明らかにし、テロ撲滅を宗教を超えた課題として打ち出す以外に方法はなかろう。
 これは二〇〇四年の総選挙に向けて現政権への求心力を高めることにもなり、結果的に通貨安定をもたらすことになる。旧態依然の「闇から闇に葬り去る」やり方では、とても安心してルピアは買えない。(東京三菱銀行ジャカルタ支店トレジャリー課)

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政府がテロ退治を決断 バリ島爆弾事件で一変
 イスラムの抵抗に配慮 バアシル氏逮捕で迷う

 昨年九月十一日、ニューヨークの世界貿易センタービルが、アルカイダによって爆破された米攻撃テロ事件や、米国のアフガニスタン攻撃に対し、アジアでは唯一インドネシアで反米デモが盛んになり、ジャカルタの米国大使館は、連日、抗議のデモが続いた。
 米国旗やブッシュ大統領の肖像が焼かれ、過激派イスラムはアフガニスタン向けに米国と戦う聖戦部隊を派遣する運動まで起こした。
 こうした反米感情の高まりに、インドネシアの経済再建に不利であると判断した穏健派のナフダトゥール・ウラマ(NU)やムハマディアなど主流イスラム組織は、政府、国会、国軍と対話を重ね、反米運動を沈静化させるのに成功した。
 しかし、米国がアジアのテロリスト狩りに乗り出すと、イスラム過激派の活動に手を焼くシンガポール、マレーシア、フィリピン政府が米国に同調。東南アジア諸国連合(ASEAN)も、米国のテロ掃討キャンペーンに協力を宣言したが、インドネシアは、あくまで消極姿勢を貫いてきた。過激派イスラムを攻撃すると、治安悪化を招き、政権の不安定につながるというのがメガワティ政権の立場だ。
 シンガポールや米国から「テロの温床」と批判され、イスラム共同体の精神的指導者とされるバアシル氏の逮捕を要求されたものの、メガワティ政権は、抵抗し続け、「インドネシアには過激派イスラム組織は存在しない」と反論。
 イスラム共同体やアルカイダと提携するイスラム団体は、国内では活動していないというのが公式見解だった。
 ところが、バリ島爆弾テロ事件で、様相は一変。それまでバアシル氏を擁護してきたイスラム政党の党首のハムザ副大統領でさえ、「法に沿って取り調べるべきだ」と態度を変えた。
 バアシル氏逮捕の根拠はインドネシア国内で過去四年間に起きた、いくつかのテロ事件にかかわる容疑だが、今回のバリ島爆弾テロ事件については、捜査が始まったばかりなので、裁判所の逮捕状の中には含まれていない。
 この十カ月間、米国のテロ一掃キャンペーンに揺れるインドネシア政府と、バアシル氏を逮捕に持ち込むまでの動きを、年表にまとめた。

◇2001年12月13日

 スラウェシ島中部のポソで住民同士の抗争が激化していた問題で、国家情報庁のヘンドロプリヨノ長官が「ポソ紛争の再燃は、国際テロ組織と国内急進派が結託した結果だ」と発言。さらに同長官は「ポソにウサマ・ビンラディン氏の組織アルカイダの演習キャンプがあり、数十人のメンバーが訓練に使用した跡が発見された。ポソは国際テロリストの訓練所として利用されている」と述べ、この情報源として「スペインで逮捕されたアルカイダのメンバーが、インドネシアとポソに言及した」と説明した。

◇2002年1月10日 

 スコハルジョ検察官が、バアシル氏の一九八五年当時の事件である、パンチャシラ違反容疑で最高裁での公判再開を検討したが、実現しなかった。

◇1月23日

 米ニューヨークタイムズ紙が「米政府高官、アルカイダのインドネシア侵入を恐れる」との見出しの記事で「米政府高官は、インドネシアでアルカイダが、何をやらかすかを考えると身震いする。インドネシアは国際テロリストにとって、世界で最も肥沃な天地の一つだ。中央政府は弱く、汚職が蔓延し、国境の警備は緩く、二億二千万人のほとんどをイスラム教徒が占めている」と書き、インドネシア政府への不満とイスラムへの警戒感を示した。

◇1月24日

 国家警察は、アルカイダとつながりがあると指摘されていたソロ在住のイスラム指導者、アブ・バカル・バアシル氏を取り調べた。イスラム過激派の一斉摘発に乗り出したシンガポールやマレーシア、米軍と共同でイスラム過激派掃討作戦を開始したフィリピンの動きに歩調を合わせたものだが、米国政府の強い圧力に対応するポーズ的な捜査の傾向が強く「証拠不十分」に。バアシル氏は「警察は私のイスラムの教えやイスラム学校の教育について聞き、アルカイダとの関連については質問しなかった。私はアルカイダと関係ない」と語った。

◇1月25日

 バアシル氏が国家警察本部を訪問し、身の潔白を主張した。

◇2月2日

 フランク・ラビン駐シンガポール米国大使が、東南アジアのテロリスト対策について「シンガポールでは相当数が逮捕されており、マレーシアでも同様の積極的な動きが見られる。だがインドネシアでは、このような対応が何も見られず、懸念している」と表明。在シンガポール米大使館を標的にしていたとされる(インドネシアの)バアシル氏を指し、「攻撃の立案者らがインドネシアにいるという報道を読むことは不愉快だ。インドネシア政府に、行動を取るよう求めたい」と強調した。

◇2月18日

 シンガポールのストレーツ・タイムズ紙がリー・クアンユー上級相の発言を掲載。「テロの首謀者はインドネシアに逃亡した。まだ捕まっておらず、シンガポールは依然としてテロの危険に直面している。インドネシアに潜伏している首謀者は、標的を定め、歩兵を動かすだけ。テロリストは多国籍企業のネットワークのような組織になっている」と述べ、インドネシアがテロリストを養成、輸出基地になっていると非難。

◇2月20日

 リー上級相の発言に対し、外務省は「友好関係を妨げる不要な発言」とシンガポールの駐インドネシア代理大使に抗議。さらに翌日、「インドネシアをテロリストの巣くつと見なす上級相に説明を求める」(ハムザ副大統領)、「上級相は不要な発言をした。良好な両国関係の発展を妨げる感情をあおることになる」(ハッサン・ウィラユダ外相)などと一斉に非難の声が上がった。

◇2月23日

 シンガポール政府が、インドネシア政府とテロ組織を解明するため合同捜査を提案。同国で逮捕したイスラム共同体(ジェマ・イスラミア)のメンバー十三人の捜査に関するインドネシアへの情報提供を約束した。

◇3月4日

 マレーシア警察幹部が国家警察本部を訪れ、二〇〇〇年十二月の教会連続爆破テロ事件に関与した疑いで潜伏中のハンバリ容疑者の身柄などについて協議した。

◇3月13日

 マニラ空港からバンコクに向かおうとしたインドネシア人のアグス・ドウィカルナ、タムシル・リンルン、アブドゥル・ジャマル・バスサスの三人の容疑者を爆発物所持の現行犯で逮捕。アグス容疑者は国内のイスラム急進派組織「イスラム法順守準備委員会」の委員やジュンドゥラ部隊の南スラウェシ支部代表。タムシル容疑者は元国民信託党(PAN)中央執行部の会計役員。三人は爆発物C4などを所持していた。

◇4月10日

 ストレーツ・タイムズ紙が同国政府筋の話として、二〇〇一年十二月、ジェマ・イスラミアのシンガポール国籍のメンバーが、シンガポールの空港を標的にしたテロを画策したが失敗し、インドネシアへ逃走したとのテロ未遂事件を掲載。同紙によると、容疑者五人は、テロ取り締まりを強化したシンガポール当局からの追跡から逃れるため、タイ南部のランカウィ海岸を経由しメダン入り、インドネシアに潜伏した。

◇4月20日

 バアシル氏がパンチャシラ違反容疑で公判を再開された場合に備え、政府に法の保護を要請した。この後、政府は、バアシル氏のパンチャシラ違反容疑に絡み、恩赦を検討した。

◇5月8日

 最高検が、破防法がすでに破棄されているとして、バアシル氏の公判再開はしないと、バアシル氏の捜査の打ち切りを発表した。

◇6月5日

 米中央情報局が追跡していたアルカイダの東南アジア地区幹部、オマル・アルファルク容疑者(三一)が、ボゴールの自宅で逮捕され、米国へ送還された。アルファルクが東南アジアのテロ組織の内幕を自供し始める。

◇9月18日

 米タイム誌は、アルファルク容疑者(三一)が、メガワティ大統領の暗殺やアジア各地の米国大使館爆破を計画。九月十一日の米攻撃テロ一周年に向け、インドネシアをはじめマレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、台湾などの米大使館に爆弾搭載の車で突っ込む同時爆弾テロの準備を進めていた−と報じた。「インドネシアがアルカイダの重要拠点」と結論を出し、テロ警戒に甘いインドネシア政府を批判した。

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揺れるイスラム勢力 <らしんばん>
 コラムニスト・高取茂

 十月十六日昼過ぎ、スマンギ交差点を車で通っていたら妙に混雑していた。
 こんな時間に変だと思っていたらスディルマン通りに面するジャカルタ警察署前のデモが原因であった。
 全員、緑のシャツに白のズボンやスカートを身につけた、整然としたデモではあった。彼らが手にするプラカードには「FBIは出て行け」「バリが爆発して、アメリカが狂喜」「ドルのために国を質に出すようなことはやめろ」などと書かれていた。
 バリでの爆弾テロ事件でアメリカやオーストラリアの捜査チームが来ていることなどへの反発であろう。全員が同じユニフォームを着ていたのだから、どこかイスラム団体が組織したデモであることは疑いない。
 イスラム教徒にとってイスラム過激派のテロ事件は気が重い。イスラムとしての同胞意識が強いからか、単なる犯罪者として切り捨てることが難しいようだ。アフガニスタンのタリバン政権に対する米英を中心とした多国籍軍による攻撃の時にも、多くのインドネシア人イスラム教徒は複雑な思いを抱いていた。イラクに対するブッシュ米政権のやり方は銃をちらつかせるカウボーイ外交として反感をよんでいる。

■独立自尊の精神で

 イスラム過激派に対するインドネシア政府の対応が生ぬるいとアメリカやシンガポールから非難され、それに対してハムザ・ハズ副大統領がインドネシアにテロ組織はないと反発したことにも、こうした国民感情が背景にあった。
 イスラム系の新聞は事件をどう伝えているのだろうか?
 イスラム系日刊紙「レプブリカ」の姿勢は第一報から他紙とは一線を画していた。一面トップに白抜きの大文字で連日スローガンが掲げられている。初めてのことだ。
 「私たちは今回のテロを強く非難します」(十四日)、「同胞たちよ、分断のたくらみに警戒を怠るな」(十五日)、「民族精神(愛国心)を燃え上がらせよう」(十六日)。
 そして十七日は「独立自尊の精神で団結する時だ」と続いた。十七日の場合、数人の外国人警官の姿を映した写真がそのすぐ下に掲載された。それは、あたかも外国人警官が事件の捜査を主導しているかのような印象を与えるものである。

■自作自演説の新聞

 レプブリカ紙の報道は最初から、事件はアメリカの自作自演の疑いが強いという立場で貫かれている。
 事件の詳細が次第に明らかになり始めた十五日の一面の連載は、使用された爆弾がC4というアメリカ軍が通常使っている種類であることを強調していたし、軍事評論家の「今回使用された爆弾はアルカイダ的ではない」という意見を見出しにした記事を載せていたことでもわかる。
 レプブリカ紙は発行部数十万部以上(同紙編集部)でインドネシアで三番目に大きな日刊紙である。インドネシアのイスラム知識人階層に読者が多いとされている。いわゆるセンセーショナルな大衆紙の報道ならそれほど気にする必要もないだろうし、事実、ジャカルタにあるその手の大衆紙はほとんどレプブリカの路線を踏襲する記事をもっとどぎつく、センセーショナルに掲載しているし、このこと自体は健全な社会の証である。
 しかし、知識人が愛読するレプブリカ紙の報道のゆがみは気にかかる。

■いまこそ、団結の力

 レプブリカ紙の報道の基調は、連日のスローガンが示す通り「団結」である。他紙にも「団結」を呼びかけているものがないわけではない。例えば、十六日のメディア・インドネシア紙(発行部数第二の日刊紙)は「失われた好機」と題する社説で、インドネシアにテロ組織があるという外国の指摘を否定し続けてきた閣僚がいたため政府が一丸となってテロ対策に取り組むことができなかった。それが今回のバリの爆弾テロ事件をよんだ背景であるとしている。
 他の頁には「団結してよ、一緒に闘わなければ!」と言いながら泣き叫ぶ子供の漫画も載せられていた。指導者たちの仲たがいを国民は泣いている、というメッセージだろうか。

■「外圧」に屈するな

 しかし、両紙の間の決定的な違いは、メディア紙が政治家たちに団結せよと呼びかけているのに対し、レプブリカ紙は「外」からの圧力に抵抗するために国民全体に団結を呼びかけている点だ。
 要するに、インドネシア国内のイスラム教徒に対する取り締まり強化を求めるアメリカやオーストラリアの「外圧」に屈するな、という呼びかけだ。
 インドネシア人にとって「外」はマイナス・イメージが付きまとっている。三百年という植民地支配の記憶であろうか。外国への警戒心は、日本人にとっての「内・外」意識に通じるところがある。例えば、金融危機で破綻した国有財産の売却に関し、外国資本がそれを取得することについて「国の財産を外国に売り渡すのか」という論調が必ず起こる。もちろん、政治的駆け引きとして利用されているだけなのだが、そういう主張が国民に訴える力を持っているところが問題なのだ。

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フラッシュ・ニュース

■アジ・スシロ激勝!!

 20日、ディファ有明で行われた総合格闘技大会「THE・BEST・Vol3」で、アジ・スシロ(インドネシア)が、シュエ・ドゥー・ウォン(ミャンマー)を2ラウンド42秒、チョークスリーパーで破った。1ラウンドで、アジは、下から三角絞めを極めたまま相手に持ち上げられ、何度もマットに叩きつけられるも離さず。2ラウンド開始とともにタックルにいき、マウントポジションを取る。亀になった相手に、チョークスリーパーを極めた。

■連日続く爆破予告

 12日のバリ島爆弾テロ事件以降、連日、爆破予告の電話が続いている。バリでは、ホテル・クタ・パラディソやマクドナルド、ングラライ空港そばのホテル・ハイアット、ホテル・ナトゥールなどが被害にあった。ジャカルタでも、証券取引所、チェイス・プラザ、バンク・バリ・タワー、最高検などに予告電話があった。(ドゥティックコム)

■私の妻なんです

 タンゲラン県警はこのほど、県内5カ所の売春宿を一斉捜査、59人の売春婦を逮捕した。同時に逮捕された男性客の一人は、警察に連行される売春婦たちを見て唖然。「白い服を着た売春婦は私の妻なんですけど」と警察に語ったという。(ポス・コタ)

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