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2003年5月31日 じゃかるた新聞掲載

アチェ死者数117人に 国軍発表
 国連総長、市民の保護要請 GAM兵士を山に追い込む

 独立派武装組織、自由アチェ運動(GAM)のゲリラの掃討作戦を展開している国軍は三十日、戦闘開始以来十二日間の死者数は、GAM兵士九十人、国軍兵士十二人、民間人十五人、計百十七人に達したと発表した。国軍は、村や町の住民を巻き込みながら抵抗するGAM兵士を住民から切り離し、山岳部へ追い込む分離作戦に全力を挙げている。一般市民の死傷者が急速に増加していることに対し、国連のコフィ・アナン事務総長は「市民の犠牲者が出ているのは遺憾だ。市民の生命を保護してほしい」との声明を発表した。

投降したGAMの民兵19人=アンタラ通信提供
投降したGAMの民兵19人=アンタラ通信提供
 独立派武装組織、自由アチェ運動(GAM)のゲリラの掃討作戦を展開している国軍は三十日、戦闘開始以来十二日間の死者数は、GAM兵士九十人、国軍兵士十二人、民間人十五人、計百十七人に達したと発表した。国軍は、村や町の住民を巻き込みながら抵抗するGAM兵士を住民から切り離し、山岳部へ追い込む分離作戦に全力を挙げている。一般市民の死傷者が急速に増加していることに対し、国連のコフィ・アナン事務総長は「市民の犠牲者が出ているのは遺憾だ。市民の生命を保護してほしい」との声明を発表した。
 国軍作戦本部のヤニ・バスキ報道官は三十日の記者会見で「GAMをより狭い地域へ追い込んでいる」と述べ、住民とGAMの分離が進み、GAMの潜伏場所に集中攻撃を加える方針を明らかにした。
 同報道官は、さらに、マラッカ海峡に位置するアチェ特別州の海域の警備を強化し、タイなど周辺諸国からの武器密輸を水際で阻止する体制を整えると語った。
 エンドリアルトノ国軍司令官は「GAMは追い詰められたため、昔の拠点に舞い戻った」と述べ、軍事作戦は順調に進んでいるとの見解を示した。
 国家警察は機動隊など六百六十三人を増派、国軍の掃討作戦を支援するとともに、逮捕したGAMメンバーの捜査を進める。
 しかし、GAMの五千人の戦力は健在で、地域によっては、国軍とGAMのゲリラ戦が泥沼化し、住民の間に犠牲者が増えるとの懸念も根強い。
 コフィ・アナン国連事務総長は二十九日、「アチェで市民の犠牲者が出ていることを遺憾に思う」との声明を発表した。
 これに対し、ヤニ・バスキ報道官は「軍事作戦が始まる前、アチェ市民は軍事作戦地域(DOM)の再開ととらえ、不安が高まったが、市民の犠牲者を最小限に抑えていることで、市民は国軍を支持しつつある」と述べた。
 現地からの情報によると、三十日、GAMのサバン地区司令官ら十九人が投降した。国軍は数十人程度の民兵を率いるGAM地域司令官が、政府側に帰順したことを地元のマスメディアを利用して大きくクローズアップ。相次ぐ投降者の証言を基に、分離独立運動の末に生じたGAMの内部分裂を強調している。

■2人を国際指名手配

 国家警察のザイヌリ・ルビス報道官は、国際刑事警察機構(ICPO、本部・仏リヨン)本部に、タイに潜伏しているとされるGAM幹部ザカリア・ザマン、マレーシアのヌルジャリ・イブラヒム両容疑者の身柄拘束を求める国際逮捕手配書の発行を要請したと明らかにした。武器密輸のほか、学校放火、メダンの爆弾テロ事件などに関与した疑いが持たれている。



2002年5月20日 じゃかるた新聞掲載

アチェ再び内戦へ 国軍がGAM掃討開始
 ロケット弾で拠点を砲撃

 東京で十七、十八日の二日間、開かれた独立派武装組織・自由アチェ運動(GAM)との和平協議が決裂したのを受け、メガワティ大統領は十九日未明、大統領令を発令、アチェ特別州全土に事実上の戒厳令である軍事非常事態宣言を布告した。国軍は、ただちにGAMの軍事拠点へのロケット攻撃を開始、約五千人にのぼる武装兵力を抱えるGAMの掃討作戦に着手した。一九七六年、GAMが分離独立を掲げてゲリラ戦を開始して以来、スハルト政権による約十年間の軍事支配に続き、アチェ特別州は、再び内戦状態とも言える軍事衝突が繰り返されることになった。

アチェ特別州
アチェ特別州
 メガワティ大統領が十九日午前零時に発令した二〇〇三年大統領令二八号によると、政府の包括的な政策や対話は、GAMの独立への意思を変えることができず、むしろGAMによるテロなどの暴力行為を増加させた。このため、政府はアチェ住民を保護し、領土を保全するため、国会の支持を得た上で軍事非常事態を布告する、としている。軍事非常事態の期間は六カ月と限定したが、情勢によっては延長も可能。
 エンドリアルトノ国軍司令官とダイ・バクティアル国家警察長官は十九日、バンダアチェを訪れ、前線兵士を閲兵した。
 エンドリアルトノ司令官は記者会見、「国軍兵士に、投降を拒否するすべてのGAMメンバーを捜索し、壊滅するよう命じた。GAMの勢力はすべて把握している。六カ月前後で、壊滅させることができるだろう」と述べ、約五万人の兵力をアチェ全土に展開し、一九七五年の東ティモール侵攻以来の大規模な軍事攻勢で短期に戦果を挙げる方針を明らかにした。
 十九日午前七時半、メダンを出発した陸軍戦略予備軍空挺部隊ヘラクレス六機の四百六十八人は、バンダアチェの空港にパラシュートで降下。民放テレビ各局はこの様子を放映した。
 また空軍の爆撃機六機は、バンダアチェ南東約二十キロのチョット・クウンの上空から、ロケット弾を発射するなど空爆を開始した。国軍当局によると、チョット・クウンはGAMの拠点の一つで、市民の死傷者は出ていないとしている。
 北アチェ県ニサム、東アチェ県ブキットスラマットなどで国軍とGAMが交戦したが、死傷者は不明だ。
 アチェ軍管区のイスカンダル・ムダ師団のフィルダウス報道官は、じゃかるた新聞に「十九日までに、国軍兵士二万八千人を配備した。GAMの主要な拠点であるロクスマウェに四大隊、ビルン県に一大隊を派遣した」と語った。
 治安当局の軍事作戦に対し、GAMは徹底抗戦を主張、アチェ市民にはゼネストを呼び掛けている。
 GAMのスポークスマン、ソフヤン・ダウッド氏は「病院以外の政府機関やガソリンスタンドは閉鎖する。軍事作戦が実施されていない地域の市民は、通常に活動できるが、十分に警戒しなければならない」と語った。
アチェ独立紛争
アチェ独立紛争
 七六年から分離独立運動が続くアチェ特別州は、八九−九八年の九年間、軍事作戦地域(DOM)に指定された。DOMが解除された後も、治安当局とGAMの交戦は続いており、これまでの死者は一万二千人以上に達するとみられる。

■企業・施設の警備強化

 米系石油会社エクソン・モービル、天然ガス会社アルンなど同州にあるエネルギー関連施設の警備について、プルノモ・ユスギアントロ鉱業エネルギー相は、「軍事非常事態宣言の影響は出ていない。従業員退避の要請もなく、治安当局のほか、各社の警備員、住民なども警備に当たっている」と語った。

■避難民10万人にも

 バクティアル・チャムシャ社会相は「避難民はロクスマウェ、ランサ、ビルンなどを中心に十万人に達するとみられる。すでに約一万人が避難しているが、人道支援に五百億ルピアを供出し、対処している」と述べた。

州都は平常通り

 戒厳令の布告から一夜明けた十九日、アチェ特別州の州都バンダアチェでは、商店や市場が営業を継続し、公共交通機関も運行するなど市内の様子に大きな変化は出ていない。
 現地からの情報によると、同日朝、市民は平常通り、職場や学校に向かった。市場でも、食料や日用品を大量に買い込む人はなく、物価の上昇も見られない。
 地元紙スランビ・インドネシアのジャリミ記者は「前日までと比べ、バンダアチェ市内の様子に大きな変化はみられない。市民にとっては、これまでもずっと戒厳令下に置かれていたようなもので、戒厳令の発令に不安を示す人は少ない」と語った。
 ジャリミ記者によると、大通りは交通量も多く、道端の屋台では、コーヒーをすすりながら、カードゲームに興じる男性の姿が見られた。
 しかし、イスカンダル・ムダ師団の報道官によると、GAMの拠点であり、国軍が軍事作戦を開始したピディ県や北アチェ県ロクスマウェでは、学校が放火されるなどしており、公共交通機関はストップ、住民は戦闘を恐れ、外出を控えている。

首都で報復テロ警戒

 ジャカルタ警視庁のプラスティヨ報道局長は十九日、国軍の軍事作戦に対し、「GAMが報復テロを行う可能性がある」と語り、約二万三千人の警官を動員し警備に当たると明らかにした。
 同日、警視庁本部では、警察機動部隊によるヘリコプターを使った大がかりな対テロ演習が行われた。
 軍事作戦の開始により、首都ジャカルタの繁華街や商業地帯での爆弾テロが懸念されており、警視庁は最高レベルの警戒態勢を敷いている。

「決裂は遺憾」 日本政府

 川口外相は、東京で開かれたアチェ和平協議について「不調に終わったことを、大変残念に思う」との談話を発表した。
 川口外相は「アチェ問題が、インドネシアの領土の一体性の下で、平和的に解決されることを引き続き強く希望し、必要な側面的支援を行う用意がある」と語った。
 議長国である日米、欧州連合(EU)、世銀も、アチェ和平の最後の望みが閉ざされたことに遺憾の意を表明。今後も、政府とGAMの対話再開を支援していく意向を示した。



2002年5月19日 じゃかるた新聞掲載

アチェに戒厳令 徹夜の東京会議は決裂
 大規模なゲリラ掃討作戦へ

 アチェ和平協定を協議する政府、独立派武装組織・自由アチェ運動(GAM)、アンリ・デュナン・センター(HDC)の三者合同会議が、十七日と十八日の二日間、東京の国際協力事業(JICA)の国際協力総合研修所(新宿区市谷本村町)で開かれた。最後の和平のテーブルについた政府とGAMの協議は、政府側が和平の大前提として要求するGAM側の特別自治と武装解除の受け入れをめぐって難航し、十八日深夜まで交渉が続けられたが、GAM側はこれを拒否する姿勢を変えず、決裂した。政府は十九日未明、大統領令によりアチェに戒厳令を発動、大規模なGAM掃討作戦の開始を宣言した。
 東京からの情報によると、合同会議には、ウィルヨノ・サストロハンドヨ政府和平交渉団代表、スウェーデンに亡命中のGAM幹部ザイニ・アブドゥラ、マリック・マーフッド各氏らのほか、飯村豊・駐インドネシア日本大使、ラルフ・ボイス米大使、世銀ジャカルタ事務所のアンドリュー・スティアー代表らが出席した。
軍事作戦を目前に控え、北アチェ県ロクスマウェのクルンググ港に入港した軍艦に見入る子供たち
軍事作戦を目前に控え、北アチェ県ロクスマウェのクルンググ港に入港した軍艦に見入る子供たち
 GAM代表は、東京への出発直前に州都バンダアチェで逮捕されたGAM代表五人の釈放を要求、会議のボイコットを示唆していたが、十七日午後八時半ごろ、五人の釈放を確認した後、会場に姿を見せた。このため、会議は予定から約三時間遅れの午後九時十五分ごろに始まり、翌日午前零時半まで続いた。
 政府がGAM側に受け入れを求めているインドネシアの領土保全、特別自治、武装解除の三つの条件をめぐり、GAM側の抵抗は強く、協議は難航した。
 同日午前十時に再開された会議の冒頭で、飯村大使は「成果の多い会議になるよう強く望む」とあいさつした。
 SCTVの報道によると、米国、日本、欧州連合(EU)、世銀などアチェ復興支援国が、態度を硬化させたGAMと別室で交渉に当たるなど、協議は同日深夜まで行われた。
 一方、スシロ・バンバン・ユドヨノ政治・治安担当調整相は十七日、メガワティ大統領と会談した後、「GAMは今月中に武器の六割を国家警察に提出し、東京会議閉会後、一週間以内に暴力行為を停止しなければならない」と新たな条件を突き付け、厳重に取り締まる姿勢を示した。
 軍事行動については「(治安秩序回復を目指す)軍事作戦の開始を命じる大統領令を発令する」と述べ、合同会議が失敗に終わり次第、決断する構えを見せている。



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