東京で十七、十八日の二日間、開かれた独立派武装組織・自由アチェ運動(GAM)との和平協議が決裂したのを受け、メガワティ大統領は十九日未明、大統領令を発令、アチェ特別州全土に事実上の戒厳令である軍事非常事態宣言を布告した。国軍は、ただちにGAMの軍事拠点へのロケット攻撃を開始、約五千人にのぼる武装兵力を抱えるGAMの掃討作戦に着手した。一九七六年、GAMが分離独立を掲げてゲリラ戦を開始して以来、スハルト政権による約十年間の軍事支配に続き、アチェ特別州は、再び内戦状態とも言える軍事衝突が繰り返されることになった。
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アチェ特別州
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メガワティ大統領が十九日午前零時に発令した二〇〇三年大統領令二八号によると、政府の包括的な政策や対話は、GAMの独立への意思を変えることができず、むしろGAMによるテロなどの暴力行為を増加させた。このため、政府はアチェ住民を保護し、領土を保全するため、国会の支持を得た上で軍事非常事態を布告する、としている。軍事非常事態の期間は六カ月と限定したが、情勢によっては延長も可能。
エンドリアルトノ国軍司令官とダイ・バクティアル国家警察長官は十九日、バンダアチェを訪れ、前線兵士を閲兵した。
エンドリアルトノ司令官は記者会見、「国軍兵士に、投降を拒否するすべてのGAMメンバーを捜索し、壊滅するよう命じた。GAMの勢力はすべて把握している。六カ月前後で、壊滅させることができるだろう」と述べ、約五万人の兵力をアチェ全土に展開し、一九七五年の東ティモール侵攻以来の大規模な軍事攻勢で短期に戦果を挙げる方針を明らかにした。
十九日午前七時半、メダンを出発した陸軍戦略予備軍空挺部隊ヘラクレス六機の四百六十八人は、バンダアチェの空港にパラシュートで降下。民放テレビ各局はこの様子を放映した。
また空軍の爆撃機六機は、バンダアチェ南東約二十キロのチョット・クウンの上空から、ロケット弾を発射するなど空爆を開始した。国軍当局によると、チョット・クウンはGAMの拠点の一つで、市民の死傷者は出ていないとしている。
北アチェ県ニサム、東アチェ県ブキットスラマットなどで国軍とGAMが交戦したが、死傷者は不明だ。
アチェ軍管区のイスカンダル・ムダ師団のフィルダウス報道官は、じゃかるた新聞に「十九日までに、国軍兵士二万八千人を配備した。GAMの主要な拠点であるロクスマウェに四大隊、ビルン県に一大隊を派遣した」と語った。
治安当局の軍事作戦に対し、GAMは徹底抗戦を主張、アチェ市民にはゼネストを呼び掛けている。
GAMのスポークスマン、ソフヤン・ダウッド氏は「病院以外の政府機関やガソリンスタンドは閉鎖する。軍事作戦が実施されていない地域の市民は、通常に活動できるが、十分に警戒しなければならない」と語った。
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アチェ独立紛争
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七六年から分離独立運動が続くアチェ特別州は、八九−九八年の九年間、軍事作戦地域(DOM)に指定された。DOMが解除された後も、治安当局とGAMの交戦は続いており、これまでの死者は一万二千人以上に達するとみられる。
■企業・施設の警備強化
米系石油会社エクソン・モービル、天然ガス会社アルンなど同州にあるエネルギー関連施設の警備について、プルノモ・ユスギアントロ鉱業エネルギー相は、「軍事非常事態宣言の影響は出ていない。従業員退避の要請もなく、治安当局のほか、各社の警備員、住民なども警備に当たっている」と語った。
■避難民10万人にも
バクティアル・チャムシャ社会相は「避難民はロクスマウェ、ランサ、ビルンなどを中心に十万人に達するとみられる。すでに約一万人が避難しているが、人道支援に五百億ルピアを供出し、対処している」と述べた。